フランソワ=グザヴィエル・ファーブル (1766-1837)
フランソワ=グザヴィエル・ファーブル 
『アベルの死』




官能的な死にざま


『アベルの死』(部分)
180度回転
カインとアベルの物語。旧約聖書『創世記』に記された世界最古の殺人。「羊を飼う者」アベルは、兄のカインによって殺されてしまう。動機は「嫉妬」だ。
アベルの子孫よ、眠れ、飲め、食え。
神はおまえにご満悦だ。


シャルル・ボードレール
『アベルとカイン__悪の華』(安藤元雄訳、集英社文庫)

実はこの絵を描いた フランソワ=グザヴィエル・ファーブル についてはほとんど何も知らない。この絵を所有している美術館さえもわからない。
しかしこの『アベルの死』は何よりも美しい作品で、個人的にもとても気に入っているので是非とも紹介したかった。

僕にとっては、この決してメジャーとは言えないファーブルの『アベルの死』は、同時代の巨匠アングルの『グランドオダリスク』なんか目じゃないくらい素晴らしく、技巧的にも構図的にも十分優れ、また(まあ、当然だけど)ずっと官能的な刺激を与えてくれる第一級の絵画だ。
強いて比較すれば、この作品は、僕が女性ヌードで一番気に入っているジョルジョーネの『眠れるヴィーナス』に匹敵する(対になる)静謐な美しさと、冷たいエロティシズムに満ちている。

両者ともどことなくフォルムは似ている。黄昏の風景の中の裸体。動きのないスタティックな絵。時間は止まっている。違いは「ヴィーナス」(女)は眠っていて、「アベル」(男)は死んでいる、という状況だ。

しかしこの「アベル」、やはりタナトスよりエロスが勝っていると思う。(ここではカットされているが)背景では炎が赤々と燃えている。若者の恥毛は濃く、毛皮に隠された男性器は際立っている(また、この絵を上下に回転させるとミケランジェロのアダムを思わせる)。そして何よりも燦然と輝くしなやかな肉体。
作者は絶対にホモセクシャルな資質を有しているに違いない。

 喪中の心たちに
 色目をつかう、

 アルカディアの
 聖体。


 ジュール・ラフォルグ 
 『下弦の月のLitanies』(平凡社ライブラリー)


『アベルの死』
上下反転(Windows、IEのみ表示)




Gay Passage