MICHELANGELO MERISI DA CARAVAGGIO 1571-1610
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオ

 『ナルキッソス』



ローマ国立美術館



ナルシスは勃起している、当然だ。
とりわけ印象的なのは、少年の白く輝く片膝である。もう一つの膝は、うしろに引かれてほとんどその存在を感じさせない。この前方に突き出た膝は、しばしば指摘されるように、男根の位置を占めている。だとすれば、彼は水のなかの少年に対して勃起しているわけだ。
 ── 谷川渥『鏡と皮膚』(ポーラ文化研究所)

ははーん、そうなのか。どうりで体位が不自然だと思った。やっぱりこういった絵を見ると、西洋絵画における画家のセクシュアリティは、どうしたって見逃せない。「ナルキッソス」にしても、あるいは「聖セバスティアヌス」にしても、その題材となったストーリー自体がホモセクシュアリティを感じさせるものを孕んでいるが、なによりその絵を見れば一目瞭然である。
「ナルキッソス」には、多くの場合、彼の回りに男根を思わせる「木」が屹立しているし、「聖セバスティアヌス」に突き刺さった「矢」はそれこそ男根の象徴に他ならない。

オウィディウスの『変身物語』によると、ナルキッソスは河神ケピソスの息子。「事件」が起きるのは、ナルキッソス16歳のとき。さすがギリシア!って感じで、多くの若者、娘が彼にいい寄ったそうだ。とりわけエコーという「おしゃべり娘」が、ナルキッソスに「ストーカー」を働いていた。
まあいつの時代でもそうだけど、おしゃべりな女は同性から嫌われるらしく、ユノー女神によって、エコーは、相手の言葉を繰り返すことしか能のない女にされてしまう。ますますヘンな言動を起こす女の求愛攻撃に嫌気がさして、ナルキッソスは、つい烈しい口調でエコーを跳ね除けた。
すると今度はナルキッソスのほうが悪者になってしまい、ここに復讐の女神が登場、ナルキッソスに罰を与える。彼は自分という「美少年」を愛するハメになる。やがて少年は叶わぬ恋に身を窶し、死す。そしてそこには黄色い水仙が咲くようになる……。

それにしてもカラヴァッジオの『ナルキッソス』は、「それ」があまりに直接的だ。位置といい、形といい、色といい、大きさといい(デカすぎるって!)。さすが悪人として名を馳せているカラヴァッジョ、彼の人生もノワールなら、作品もまったくノワールそのものだ。
この絵は、まだ若いときに作成されたものだが、その巨根(ファロス)にはすでに破壊的なエネルギーが横溢している。暴力的に発情している。

この片膝(男根)、やはり同じ性的志向を持つサルバドール・ダリも気に入ったらしく、『ナルシスの変貌』(1937)で、忠実に模倣されている。ダリもそうとうデカそうだ。



Gay Passage