JOHN SINGER SARGENT (1856-1925)
サージェント
 『パリスの審判』

Sargent
"The Judgement of Paris"

Coe Kerr Gallery, New York



"John Singer Sargent: The Male Nudes"遂に発売!
ジョン・シンガー・サージェント
ルーベンスあたりの『パリスの審判』だと三美神が中心で、「死すべき人間の中で最も美しい男」パリスが脇にやられている感じだが、サージェントのこの絵はパリスが中心だ。
なかなかいい構図だ。美しい男を唆そうとしている三美神(女)も必要以上にいやらしく猥褻だ。
レイトンの『アンドロメダの救出』もそうだが、女のヌードを描く口実として抜群のテーマが、男を描く図案に「転倒」している。こういった絵はホモ・エロティックの定番である『聖セバスチャン』や『カニュメデの誘惑』よりも面白く感じてしまう。

サージェントはアメリカ人であるがヨーロッパで活躍した所謂コスモポリタンで、モダンでソフィストケイトされた肖像画を多く描いた。僕の好きな画家の一人でもあるが、特にヘンリー・ジェイムズとの交流が興味深い。
僕の崇拝するジェイムズも同じくアメリカ生まれのコスモポリタンで、同時期に活躍し、モダンでソフィストケイトされた小説を数多く残した。テイストが近いというのだろうか、ペンギン版のジェイムズの本のカヴァーにはサージェントの絵が多用されていて、これが実によくマッチしている。
ジェイムズはサージェントの絵が”浮ついた”感じに流れることを懸念したが、ジェイムズ自身の小説がフォークナー等の「大地に根ざした」小説に比べると、どこか「根無し草」のような”浮つき”が感じられてしまう、というのも面白い。

二人の「性的なテイスト」が共通であったことは今では周知の事実である。サージェントは美しい女性の肖像画と同様にダンディな男性の肖像画も多く描いた。リブルステイル卿の肖像画などまさに惚れ惚れするダンディ像だ。さらにそれだけでなく、プライベートで書いた絵の多くが男性で、しかも大胆なヌードである。これらは最近"John Singer Sargent: The Male Nudes"by John Esten, Donna Hassler という形で出版された。
また彼は第一次大戦中、従軍画家として戦場に赴き、前線の男たちを描いた。

サージェントは友人ヘンリー・ジェイムズの肖像画を書いた。そしてその絵は1914年ロイヤル・アカデミーに出展された際にフェミニストの女性によって切りつけられる。ジェイムズの著作や思想とは無関係だという。彼女は何かしら特別な霊感を感じたのだろうか。

また彼の作品の中で一つ気になる絵がある。メトロポリタン美術館にある『セバスチャン神父』(Padre Sebastiano)。これは描かれた場所が「パレスチナ」を思わせる独特のもので、「植物を研究する」黒い僧服を着た年若い神父がモデルになっている。画家の妹によると、その神父は「神学上の信心が十分に厳格でなかった」ために、イタリアの外れの教区に追いやられたそうだ。
この曖昧な表現がとても気になる。
セバスチャン神父は、やがて教会を捨て、アメリカに移住する。

Nude Study of Thomas E. McKeller
Carol Gerten's Fine Art Museum of Fine Arts, Boston


『リブルステイル卿』
Lord Ribblesdale
National Gallery, London




Gay Passage