シメオン・ソロモン『バッカス』
Simeon Solomon "Bacchus" |
"The Sleepers and the One that Watcheth" (1870) Watercolor; Leamington Spa Art Gallery and Museum ソロモンの絵で多分一番有名かもしれない。 いかにもラファエル前派っぽいトローンとした甘さが感じられます。 3人とも男にも見えるし、女にも見える。ちょっとファンタジックな絵ですね。 Albert and Victoria Museum 女の腰に手を回しながらも、もう片一方の手は天使の股間をまさぐっている。 なかなかやるなあ、ソロモン! こういったデッサン画はかなりたくさんあって、その多くは倉庫に眠っているらしい。まとまった形で公開されたり出版されたらいいですね。 |
なんとなく予想はついていたけど、ここまで BINGO! だとは・・・。 本屋で『ダンディズムの世界──イギリス世紀末』(前川ゆういち、晶文社)を見つけたときの感じ──まるで偶然入ったトイレで同じ欲望を持つ男と目があったような感じ。本のカヴァーに描かれたソロモンの『バッカス』が強烈な「それらしさ─アイコンタクト─匂い」を発散していたのだ。眼差しといい、口元といい、分かる人には分かる。もちろん即効で買った。 本の内容はオスカー・ワイルドやアーサー・シモンズ、ペイター、ビアズレー、ラファエル前派等について交友関係を中心に当時の英国文芸を独特の視点と深い考察によって論じたものである。この時期の英国の文化芸術に感心がある人には必読書とも言える優れたエッセイだ。様々な示唆を与えてくれる。 この本によって初めて知ったシメオン・ソロモンだが、日本でマイナーなのは分かるとしても、本国イギリスでも同じラフェエル前派のロセッティやミレイ、バーン・ジョーンズに比べ、格段に知名度(評価)が低い。それはソロモンが同性愛の罪で投獄され社会的に抹殺されたからだろう。 簡単な経歴を述べると、シメオン・ソロモンは1840年ロンドン生まれ。名前から分かるように彼はユダヤ人で、彼の兄アブラハム、姉レベッカも芸術家として名を馳せている。兄の影響もあり画家を志し、ロセッティやバーン・ジョーンズらラファエル前派の画家たちの知遇を得る。1860年に美術院展(Royal Academy )に出品した『母の腕に抱かれたモーゼ』(モーゼの発見)が彼の最初の出世作である。その後『ルネサンス』で有名なウォルター・ペイターや詩人で文芸評論家のアルジャーノン・スウィンバーンらと知り合い、特にスウィンバーンとはかなり深い関係になったようだ。前述の『ダンディズムの世界』によると、ソロモンとスウィンバーンの二人はロセッティ宅で全裸で「追いかけっこ」をしてロセッティに怒鳴られたそうだ。 そしてソロモンは1873年に同性愛の罪で逮捕され、18ヶ月の禁固刑が言い渡される。彼はスウィンバーンら友人にも見捨てられ、アルコールに耽り、救貧院で最後を遂げる。アポロンではなくてバッカスを描いた作家はやはり破滅型なのだろうか。 ヴィクトリア朝の非寛容は一人のイギリスの芸術家を殺し、そして後にまた同じ愚行をオスカー・ワイルドに課す。 |