ヘンリー・ウォリス <チャタトン> Henry Wallis "Chatterton" テイト・ギャラリー(ロンドン) |
Thomas Chatterton (1752-1770) 夭折の詩人トマス・チャタトンは、ブリストル寺院の書記の子として生まれ、架空の中世の修道士の名前で『ロウリー詩集』を出版。その詩は長らく「本物」とされていた。 彼の死後、詩集は偽作(捏造)と判明するが、その作品そのものは中世風文体を駆使した優れたものであり、後のロマン派の詩人キーツやワーズワースに影響を与えるなど英文学史上類稀な神童として持てはやされるようになる。 特に、ラファエル前派の画家ヘンリー・ウォリスのこの緻密に描かれた絵によって、夭折の美しい詩人のイメージが定着する。個人的にはジョン・エヴァレット・ミレイの『オフィーリア』に伍する「美しい死の装具」が演出されていると思う。 チャタトンは、一時ロンドンに出て活躍するようになるが、パトロンの Mayor Beckford 卿が亡くなり、出版社の援助も得られなくなる。彼は挫折と貧困の中、小さな屋根裏部屋で砒素をあおって自殺。17歳のあまりにも短い生涯を閉じる……。 ヘンリー・ウォリスの<チャタトン>は、『エゴイスト』を書いた詩人で小説家のジョージ・メレディスが絵のモデルになっている。メレディスは贋作詩人に模し、ウォリスの前でナルシスティックな「死」を演じた。後に、この画家が小説家の妻と駆け落ちすることを知らずに……。 |