BEYOND THIS POINT ARE MONSTERS
BOOK REVIEW


女嫌いのための小品集
Little Tale of Misogyny
パトリシア・ハイスミス/Patricia Highsmith
宮脇孝雄訳 河出文庫 
ISBN4-309-46121-2

>結婚する前に読むミステリ──男性版

ゲイの作家ヘンリー・ジェイムズは、『ある婦人の肖像』で、アメリカの「お嬢さま」が「不幸な結婚」で苦しむさまを繊細な心理描写と悠長なリズムを持つ膨大な言語で描き切った。

ヘンリー・ジェイムズを崇拝するレズビアンの作家パトリシア・ハイスミスは、この短編集で『天下公認の娼婦、またの名は主婦』に代表される「被害者面した」陰険な女たちを、皮肉たっぷりな切れ味鋭い文章でパシパシと切り刻んだ。
ブラック・ユーモアどころではない。この本に描かれる女のイヤらしさと言ったら・・・。繊細な男の「論理」は図太い女の「生理」には全く敵わぬという「現実」を改めて眼前に突き付けてくれる。
目を覚ませ! 男たち。

それにしても、酷過ぎる。「酷過ぎる」と言うのは二重の思いがあって、一つは、これほど女を悪く書いていいのだろうか、と言うこと。もう一つは、こういった女性に振りまわされる男性の悲惨さである。

例えば最初の短編『片手』。この作品では、ある青年が女性にプロポーズしたばかりに発狂してしまう。またこの短編集の白眉(笑)だと思っている『天下公認の娼婦、またの名は主婦』(The Fully-Licenced Whore, or, The Wife 原題も物凄い!)も結婚によって男性が悲惨な最後を遂げる物語である。さらに『中流の主婦』ではウーマン・リブ(時代ですね)を強烈に揶揄し、登場する女性がバカみたいな死にかたをする。

もちろん男性作家でも女性をシビアに描く例はいくつもある。
例えばレイモンド・チャンドラー等のハードボイルド小説。登場する女は男を誘惑し堕落させる悪女である。しかし彼女達は例外なく美貌の持ち主である。悪と引き換えに束の間の甘い夢を見させてくれる。
例えばジャック・フィニーの小説。現実の女性は男性に挑戦的で煩く喧しい。しかし過去の女性(100年前の女性)は優しく暖かく奥ゆかしい。彼女は彼を癒してくれる。

しかしパトリシア・ハイスミスのこの小品集のように、女性を全否定する作品も珍しい。その筆致には凄味を感じる。しかも嬉々としてやっているのではないか、とさえ感じてしまう。
やはり女の悪口は、女には敵わない。彼女達は容赦しない。
そして女なら、どれほど女の悪口を書いても(男の悪口でも)許される。

この本によって、何人かの男性は結婚を躊躇するかもしれない。彼女との付き合いを変えるかもしれない。

僕はこのパトリシア・ハイスミスの短編集を、マーガレット・ミラーの『鉄の門』(早川文庫)とルース・レンデルの『求婚する男』(角川文庫)と並んで、「三大アンチ・結婚小説(男性版)」と密かに呼んでいる。




INDEX / TOP PAGE