DISC REVIEW

クルト・ワイル
7つの大罪、交響曲2番

KURT WEILL / The Seven Deadly Sins, Symphony No.2
ケント・ナガノ指揮、テレサ・ストラータス(ソプラノ)、国立リオンオペラ
ERATO

映画『セブン』でもおなじみの「7つの大罪」。7つの大罪には何があるかと言うと「怠惰」(Sloth)、「自惚れ」(Pride)、「怒り」(Anger)、「大食」(Gluttony)、「淫乱」(Lust)、「強欲」(Avarice)、「嫉妬」(Envy)。

いやー、これってみんな経験あるじゃない。特に Lust なんか(笑)。
気をつけようっと。(でも、あの映画だと、「淫乱」の殺され方は、まだ一撃で殺られるからいいものの、「怠惰」の殺され方だけは勘弁して欲しい)

この「7つの大罪」も「三文オペラ」同様ブレヒトとのコラボレーションで、バリバリのアンチ・キャピタリズムしている。大資本主義国アメリカで搾取され、見も心も窶れ果てるアンナ。と言うと、この掠れ声のテレサ・ストラータスとケント・ナガノのコンビがなかなか良い味を出している。テンポが遅く、しかもかなり揺れる。ささくれ立った雰囲気がブレヒトにぴったりだ。

これに対して、フォン・オッターとガーディナー(DG)。オッターの声は美しく、曲の雰囲気はぜんぜん違う。ただオッターは良いとしても、なんか・・・なんかオケがツマンナイ。
そう、ガーディナーってなんか個人的に合わない。この人って、もともとアタマのカタい古楽器の人じゃないかな。なんで、ワイル(ブレヒト)なんかやっているの? 
ブレヒトって題材をアイロニカルに変形し、悪戯気味に誇張して出すスタイルの作家で、愚直なまで「研鑚」と「研究」をして「オーセンティック」を追求する古楽関係者とは、演奏スタイル云々以前に、奏者の「ライフ・スタイル」のレベルからして違和感があると思うけど・・・。
何を言うにも、二度は言うな、
他人が同じ考えだとわかっても、同調するな。
署名をせず、写真を残さず、
現場に居合わせず、何も言わない、
そんな奴がつかまるはずがない!
痕跡を消すことだ!

ブレヒト”痕跡を消せ”(岩波文庫)

まあ、このDG版は、オッターのキレイなブレヒト・ソングなんかも聴けるし("Surabaya-Johnny"や"Je ne'aime pas"は最高!)決して悪くはない。どちらかと言うと愛聴しているほうだ。

ナガノ版ではワイルの交響曲第二番がカップリングされている。これがまた意外に良かった! トランペットがゆっくりとしたアンニュイな旋律を吹いたかと思うと、急にアレグロになって一気呵成に終わる。
まあ、ショスタコーヴィッチに似てなくもない。
1934年ブルーノ・ワルターによってアムステルダムで初演。
別の演奏、特にアメリカのオーケストラの演奏(サロネン=ロサンゼルスを希望)でも聴いてみたい。


ジョージ・クラム (1929-) / ブラック・エンジェルズ
GEORGE CRUMB / Black Angels Thirteen Images from a Dark Land
アントン・ウェーベルン (1883-1945) / 弦楽四重奏 Op.28
ANTON WERBERN / String Quarted Op.28
ルトスワフスキ (1913-1994) / 弦楽四重奏
WITOLD LUTOSLAWSKI / String Quarted

The Cikada Quartet
CALA

ブラック・エンジェルズ――暗黒界からの13のイメージ。
凶凶しいタイトル、禍禍しい音響。この作品はベトナム戦争にインスパイアされたものだ。


のっけから強烈な、空間を引き裂くような音響に圧倒される。電気増幅された弦楽器はまさに暴力装置として、脳髄を破壊する──”電気昆虫の夜”。
続いて薄気味悪い諧謔的な笑い──”骨とフルートのサウンド”。”失った鐘”、”悪魔の音楽”、”死の舞踏”。途中日本語で「イチ、ニ、サン」と奏者が囁く。”神の音楽”、”古代の声”等、不気味でミステリアスな音楽が鳴る。

「音」以外のモチーフとしては、副題にある通り”13”、そして”7”という「数字」がキーになる。単なる繰り返しの指定、楽曲の数、小節の数字だけに留まらず、なんとこの曲が完成されたのが1970年の13日。当然「金曜日」である。
この悪魔的な音楽は、悪魔の映画『エクソシスト』でも使用された。


カップリングのウェーベルンとルトスワフスキについて。

ウェーベルンのこの弦楽四重奏曲は正直言ってまだ良くわからない。8分にも満たない曲なのに、どうしても把握しきれない。口惜しい。
ウェーベルンは、果たして「音楽」を書いたのだろうか?

ルトスワフスキの四重奏曲はすでに古典になっているだろう。30分近くもかかる大作にもかかわらず、案外聴き易い。序奏では断片的なモチーフが現れては中断されるが、いかにもルトフワスキらしい音形が、文章のピリオドのように何度も現れ、ダラーンとなりがちな「現代音楽」をキュっと引き締めてくれる。
後半のメイン・ムーブメントで「運動」が始まり、スピートが加わる。「時間」の密度が変わる。パターン化されたモチーフがストリング・カルテットの表現力をフルに用い、変幻自在、神出鬼没の「物体」になる。
この曲で僕が特に「感動」したのは、倍音の効果によって、モノ・トーンのはずの弦楽四重奏にオーロラのような色が「見えた」部分だ。このCDの後半楽章丁度7分あたりにある。


アーノルド・シェーンベルク(1874-1951)
月に憑かれたピエロ Op.21、組曲 Op.29

ARNOLD SCHONBERG / Pierrot Lunaire Op.21 / Suite Op.29

バルバラ・スコヴァ(シュプレッヒシュティメ)
レインベルト・デ・レーウ指揮、シェーンベルク・アンサンブル
KOCH SCHWANN





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