DISC REVIEW

ヴィラ・ロボス
ピアノ協奏曲第五番

HEITOR VILLA-LOBOS (1887-1959) / PIANO CONCERTO NO.5 (1954)

クリスティアナ・オルティス(ピアノ)
MIGUEL GOMEZ-MARTINEZ, ROYAL PHILHARMONIC ORCHESTRA

DECCA


ラフマニノフの5番?

このCDにはヴィラ・ロボスのピアノ協奏曲全5曲が録音されているが、僕が好んで良く聴くのは第5番だ。この曲、ヴィラ・ロボスには悪いが、例えば誰かに「これってラフマニノフの五番だよ」って言っても信じてもらえるかもしれない。
それくらい、この曲は、甘く、メロディックでセンチメンタルな詩情に溢れている。ラフマニノフの音楽が好きな人には絶対にお奨めの曲だ。

1楽章のオーケストラの前奏こそ、いつものヴィラ・ロボスの威勢の良い「活気」と「熱気」に溢れているが、ピアノが入ると一気にロマンティックに崩れ落ちる。良くも悪くも映画音楽、大河ロマンを彷彿させる。しかし誰しも、余程の変人か気取り屋以外、この「ロマンス」の魅力に逆らえないだろう。
しかも2楽章になると、息の長いメロディーをさざ波のように震える弦にもたせ、響きの美しい木管を絡ませておいて、そこに待ってました!とばかりにピアノをせつせつと歌わせる。哀愁を帯びたメロディにグッとくる。ココロのスキマを埋めるにはうってつけの音楽だ。
後半楽章は華麗に盛り上がるが、途中、1楽章のメロディが再帰され、なかなか老獪な(あざとい?)効果を示す。

ヴィラ・ロボスのピアノ協奏曲は、どういうわけか晩年に集中して書かれている。1番から4番までは、どちらかと言うとモダンでちょっと渋い。どの曲もブラジル出身のオルティスがなかなか健闘してくれている。
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ルイ・ヴィエルヌ
ピアノ五重奏曲、チェロソナタ

LOUIS VIERNE (1870-1937) / Quinted in C minor for 2 violins, viola, cello and piano, Op.42
Sonata in B minor for cello and piano, Op.27


LE GROUPE DE CHAMBER DE MONTREAL

加CBC Records / MVCD1085


さすがフランクの教え子。
暗い情熱。ドラマティックでハイ・テンション、そしてエモーショナル。


フランクのピアノ五重奏曲同様、ヴィエルヌの同曲も、堅牢な構造様式とロマンティックな感情表現を同時に併せ持つ。
音楽(旋律)の持つ官能性や神秘性ではフランクに一歩譲るものの、ピンっと張り詰めた緊張感とドラマティックな展開には、まさしく息を呑む。はっきり言ってヴィエルヌのこの音楽は非常に(非情なくらい)暗く、絶望的な思いに捕らわれる。マーラーの『悲劇的』同様、短調で終わる。

フランス人ヴィエルヌの音楽は、ちゃらちゃらした「エスプリ」というコトバとは無縁だ。もっと真摯で奥深く、切実な音楽である。
そう。この五重奏曲作曲の契機となったのは、彼の17歳の息子の死である。第一次大戦中の出来事だ。そしてさらにこの音楽の作曲中に、彼の兄(弟)までも戦死する。

ヴィエルヌの五重奏曲は、この二重の悲劇により生まれた。作曲者にとって、この音楽は、ある種、葬送の音楽であり、レクイエムであると言えるかもしれない。

一楽章の出だしは不安な心理を表すかのような、幾分神経質なレントから始まる。やがてチャイコフスキーの『悲愴』第一楽章第二主題を思わせる、哀愁を帯びた、思い入れたっぷりのメロディーが奏でられる。このメロディーが曲全体を通して繰り返され、その度に連綿たる情緒に胸を打たれる。実にエモーショナルな音楽だ。そして消え入るように、この楽章は閉じられる。
第二楽章は、まさにラルゲット・ソステヌートの指示通りに、チェロがエレジーを歌う。泣かせる。だが、静かで瞑想的な雰囲気の只中、突如、激情が牙を剥く。
第三楽章はマエストーソで、情熱が迸り、音楽は異様なくらい盛り上がる。不気味な行進曲、あるいは死の舞踏だ。そして最後は「遂にキレたか」、と思わせるくらいに暴走し、テンションがマキシマムに上がり、ドラマティックに終結する。


カザルスに献呈されたチェロソナタ。なんと言っても第三楽章が好きだ。テンポはアレグロで、チェロ、ピアノともに華々しく活躍し、印象的で美しく、親しみやすいメロディを「競って」歌う。ヴィエルヌって意外とメロディー・メーカーなんだな、と思う。
第一楽章もチェロが朗々と歌い、低音を響かせる。包容力のあるチェロの音色に抱かれているだけで、幸福な気分になれる。
そして第二楽章。やはりエレジーと呼ぶに相応しい。どこか切なくノスタルジックな思いを募らせる。チェロは胸を揺さぶるような重低音を響かせ、ピアノは星屑のような高音をキラめかせる。
それは、なにかしらのイメージを喚起させ、目を瞑らせる。まるで懐かしい夢を見るように。

生涯を通して盲目だったルイ・ヴィエルヌ。そのせいもあるのだろうか、彼の音楽は特別な霊感に満ちている。
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