DISC REVIEW

Gustav Mahler
Symphonie No.7
グスタフ・マーラー / 交響曲第7番
Gustav Mahler (1860-1911) / Symphonie No.7




クラウディオ・アバド指揮、シカゴ交響楽団
Recording:1984(DG)


ピエール・ブーレーズ指揮、クリーヴランド管弦楽団
Recording:1994(DG)




奇を衒うつもりはないが、マーラーの交響曲の中で一番好きなのは、この7番だ。もっとも最近は、9番の虚脱感漂う彼岸(悲願)のアダージョもかなり僕の胸を抉ってくれるが、やはり7番のめくるめく歪な世界は魅力的だ。

そう、なんといってもあのスケルツォ。シンメトリーな構成を取るこの交響曲の中心に位置する、核を成す楽章だ。気持ち良いはずのワルツのりズムに乗って、意表を突く楽器の使用、特殊奏法による耳慣れない音色、グロテスクな音響が、まさに「影のように」独特のムードを醸し出す。
ケン・ラッセルの映画『マーラー』でも、この音楽が使われた場面が一番印象に残っている。
「さかしま」の世界を最高の鮮烈さをもってイメージさせてくれる音楽。圧巻だ。

スケルツォを挟む二つの『夜の歌』も、不安と、それと対称的な白痴美を思わせるムード・ミュージックになっている。
最初の『夜の歌』は、ひたすら暗く、沈鬱な気分にハマらせてくれるダウナー系。時折、やるせないくらい憧憬に満ちた旋律が、胸を打つ。

一方、第二の『夜の歌』は、確かに甘く美しいが、奇妙な明るさがどう考えても不自然で、却って嘘っぽく、そらぞらしく響き渡る。
ギターやマンドリン、ソロ・ヴァイオリンといった繊細で「いかにも甘いセレナーデ」風の音色が、実は「死刑執行人のセレナーデ」(コーネル・ウールリッチのサスペンス小説)になるとも限らない。そんな疑惑さえ浮かび上がる偽物めいたロマンスだ。

アンニュイなホルンで開始される第一楽章は、終了間近、音楽が壮大に盛り上がっていく中、クライマックスで鳴らされるトランペットの高音には、まったく震えが走るくらいシビレてしまう。最高だ。
また、終楽章のティンパニのソロも唖然とするくらいカッコイイ! 終始躁状態で貫き通す「マジメ」なクラシックらしからぬ音楽。聴き終わってからも、いつまでも興奮さめやらぬ気分が持続する。まさしくアッパー系の音楽だ。
やっぱり7番が一番好きだ!

演奏はクラウディオ・アバド指揮、シカゴ交響楽団のデリケートかつマッシブな演奏が気に入っている。フィナーレのティンパニソロはドナルド・コスだろうか? 上手すぎる

あと僕の好きなクリーヴランド管弦楽団では、残念ながらドホナーニ指揮の演奏はないのだが、ブーレーズの「いろいろな音がきこえる」幾分末端肥大的な面白さを追求した演奏がある。精妙なアンサンブルはそれだけで心地良い。フィナーレのティンパニもなかなか豪快に、気持ち良いくらい鳴らされる。

どちらの演奏もアメリカオーケストラの凄さをまざまざと見せつけてくれるはずだ。
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