DISC REVIEW

ジャン・アラン / オルガン作品集

JEHAN ALAIN (1911-1940) / Organ Works

THOMAS TROTTER, organ

  • Trois danses
  • Fantasmagorie
  • Première fantaisie
  • Deuxième fantaisie Suite
  • Deux danses à Agni Yavishta
  • Trois Pièces


Recording 1990
ARGO 430 833-2



哲学者フレディ・エアはかつてこう訊ねられた。あなたにとってパリを一番想起させるものは何ですか? 名高き老論理実証主義者は一瞬考えて、答えた──「『パリ』と書かれた道路標識
ウィル・セルフ『尺度(スケール)』(柴田元幸訳、新潮社)


ほぼ同世代で、同じく、まるでシンセサイザーのような音響が飛び交うメシアンのオルガン曲と比べて、アランの音楽は、もっとずっと気楽で、愉悦に満ちている感じがする。
それは、この曲集の最後を締めくくる作品”リタニ”Litanies を聴けば明らかだろう。

Litanies─連祷。どちらかというと宗教的な静謐さ、暗澹さえイメージするこの宗教用語からは(キリスト教徒ではない僕にとっては)想像もつかない、リズミカルでゴージャスな音楽が堂々と響き渡る。(武満徹やエマニュエル・ヌネスのまさに静謐な音楽と対極にある)
まったくゴキゲンな曲だ!

他に”アニュイ・ヤヴィシュタの2つの舞曲 ”(Deux danses à Agni Yavishta)あたりも、不思議な音響と軽やかな(オルガン曲を形容するのには不適切かもしれない)曲調がとても印象的だ。

この音楽を聴く度に、アランが時々描いていたマンガのようなポップなイラストを思い浮かべる。CDの解説で何度も触れられているアランの”フランス的”というイメージが、なんとなく、わかったような気がする。

ジャン・アランは著名なオルガニスト、マリ・クレール・アランの弟である。教会のオルガニストであった父から教育を受け、パリ音楽院で学び、ポール・デュカスに作曲を師事する。

彼は1940年に29歳の若さで死んだ。彼もまた戦争の犠牲になった一人である。
残されたのは、ほんの少しの、しかし若々しく素晴らしく新鮮な感覚のオルガン曲、およびピアノ曲だけである。
Litanies─連祷


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