DISC REVIEW

ディアンス ”タンゴ・エン・スカイ”
コシュキン ”アッシャー・ワルツ”


ROLAND DYENS (b.1955) / Tango en Skai
NIKITA KOSHKIN (b.1956) / Usher Waltz


Elena Papandreou, Guitar

Recording 1996
NAXOS 8.554001




1992年度GFAギターコンクール優勝者エレナ・パパンドレウ(1996年アテネ生まれ)によるギターリサイタル。曲目は
  • ママンガキス ”フォーク・ダンス”
  • ストラヴィンスキー ”兵士の物語”
  • ディアンス ”タンゴ・エン・スカイ”
  • コシュキン ”アッシャー・ワルツ”
  • テオドラキス ”2つの歌(「リリコティラ」より)
  • ママンガス "HROES"
  • ブードゥーニス ”8つのサマリー” ”エレナへのチフテテリ” ”カクテル”
ストラヴィンスキーとテオドラキス以外はまったく未知の作曲者で、しかもあまり馴染みのないギター音楽だったが、コシュキン ”アッシャー・ワルツ”という題名が気になったのと、やっぱり NAXOS だったので(これが重要)買ってみた。

これは正解。どの曲も、ギター特有の哀愁を帯びたメロディーが美しく、しかも響きは(ピアノやオケと違って)とてもクールだ。
そう、ほんとうにクール。大きな音で声高に叫ぶ(叩く、鳴らす、そして泣く)タイプの音楽の後に聴くと、とても新鮮に感じる。

気になったコシュキンの”アッシャー・ワルツ”は、やはり、エドガー・アラン・ポウの『アッシャー家の崩壊』にインスパイアされたものであった。しかもこの曲、「ギターの”メフィストワルツ”(リスト作曲)」を目指したもので、華麗な技巧が、これでもか、と披露される。
雰囲気はたしかに原作の不気味さを狙っているが、響きそれ自体はかなり洗練されていて、展開も非常に巧みだ。ドラマティックで聴き応えは十分。様々な音色がギター1挺から聞こえてくる。正直、ギターの表現力の幅広さに驚いたくらいだ。

ママンガキス、テオドラキスは、その怪獣みたいな名前からもわかるようにギリシア人で、両者とも民謡風の音楽を切々と歌わせる。こういったフォークロア的な情緒はとても魅力的だ。

ブードゥーニスもギリシア人だが、こちらはそれほど暗くは(あるいはシリアスでは)なく、音楽はどちらかというと南米風で、ほどよくムーディ。
特に”エレナへのチフテテリ”はメロディーがポピュラー音楽風で、また、ギターのボディを派手に叩いてリズムを取ったりして、ノリもいい。ラテン的な官能性を感じさせる音楽と言えるだろう。

そしてこの曲集で最高に良かったのがディアンス ”タンゴ・エン・スカイ”。もし、僕がギターをやるとしたら絶対にレパートリーに入れたい!弾きたい!ナンバーだ
なによりこのチュニジア生まれのフランス人の音楽は、かっこいい! 演奏効果も抜群。情熱的で、そして都会的でもある。まさにクールな音楽。
この曲はもっと知られて(演奏されて)よい曲だと思うし、ぜひ知らしめたい。

”タンゴ・エン・スカイ”を弾けば、たとえ美男美女でなくても、一時ヒーロー/ヒロインになれること請け合いだ。とくに見た目が地味な学生なんかは、学祭あたりに向けて練習したらどうだろう?きっと注目されるぜ!

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