DISC REVIEW
エリー・アーメリング
<シューベルト歌曲集>

FRANZ SCHUBERT (1797-1828)
LIEDER


ELLY AMELING, soprano

RUDOLF JANSEN, piano
DALTON BALDWIN, piano

Recording 1972-1984
PHILIPS



かなり前だが、テレビで『華の乱』という映画を見たことがあった。与謝野晶子の生涯を描いたもので、監督は深作欣二、主演の与謝野晶子役は吉永小百合。その他オール・キャストで、当時の華々しい「文壇」が活写され、有名な作家や文人の「高級なゴシップ」が繰り広げられていた。
日本文学に興味のある人だったらかなり楽しめるものなのだろう。

しかし、僕は「日本文学」(あるいは「明治文学」)に疎く、邦画にもそれほど夢中になる性質ではないので、残念ながらこの映画自体はあまりよく覚えていない。
ただ一点、映画の中でシューベルトの歌曲『水の上で歌う』が流れ、そのシーンで画面に釘付け…ではなく、音楽に集中していたことは、はっきりと覚えている。音楽は、哀しくも慈愛に満ちた感動的なものだった。

後になって、『華の乱』で使われた曲を歌っていたのが、オランダのソプラノ歌手エリー・アーメリングだとわかった。それで買ったのがこのCDだ。『水の上で歌う』はもちろん、『アヴェ・マリア』、『ガニュメート』等シューベルトの有名な作品が録音されている。

アーメリングは1938年、オランダのロッテルダムに生まれた。もうかなりお年をめしているはずだが、声は美しく、愛らしい感じがする。キュートと言ってもよいくらいだ。

シューベルトの女声用歌曲は、いちおうヤノヴェッツの演奏が僕にとってのデファクト・スタンダートである。やはりこのドイツ生まれのソプラノ歌手が一番しっくりとくる。しかし時には別の歌手で聴いてみたくなることもある。ヤノヴェッツの歌唱は確かに素晴らしいが、ちょっと重すぎるというか、深刻過ぎて疲れるときも、正直、ある。

例えば『糸をつむぐクレートヒェン』。ここでのヤノヴェッツの歌は、非常にドラマティックで鬼気迫る感じがする。聴いていて恐ろしくなるくらいだ。
これに比べてアーメリングは、なんて優しいんだろう! 『野ばら』も甘く、『シルヴィアに』もとても心地よい。
彼女の歌声は何となく、落ち着いた気分にさせてくれる、ちょっとした幸福な気分にさせてくれる。
彼女の歌声は本当に「慈愛」に満ちている。

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