Erwin Schulhoff (1894 - 1942)
Ebony Band
- AMSTERDAM -
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Orinoco
Sonata Erotica("for Gentlemen only")
Susi
Symphonia Germanica
Zehn Klavierstucke
Bassnachtigall
Dneska kazda modni zena
Syncopated Peter
Zebrak
Oraty
Ukolebavka
Die Wolkenpumpe
Hot Sonata
Kassandra
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Recording 1996 / CHANNEL CLASSICS
エロティックさでは、
スクリャービンの<法悦の詩>(ポエム・オブ・エクスタシー)を軽く超えた! もちろん
ショスタコービッチの<ムチェンスク郡のマクベス夫人>も
ヤナーチェクの<消えた男の日記>も遥かに凌駕した
R指定、XXX、ハードコア、猥褻音楽。
それがシュールホフの
<ソナタ・エロチカ>である。
たしかに「ソナタ」と銘打っているが、無論器楽曲ではない。一種のパフォーマンス音楽(?)で、当時ハヤリの
”ダダ”を「標榜」したものである。曲名に添えられた
"for Gentlemen only"という「但し書き」がなんともシャレている。
どういう音楽(?)かというと、女性の声が「無伴奏」で
"nicht, nicht doch, ah, Du!"(意訳すると”だめよ、だめよ、そこ、ああん、あなた!”かな?)と喘ぐ。そして最後には
水の流れる音がジョーッと響き渡る。要するに映像のないポルノグラフィーである。
こんな音楽(?)だから、休日の穏やかな午後に、コーヒーを飲みながら、スピーカーのボリュームを上げ大音響で聴く……なんてことは出来ない(隣近所のたてまえもあるし…)。酒を呷って、夜中にヘッドホンでチロチロと聴くのが良いだろう。
このCDではオランダの女優/歌手の
Loes Lucaが、見事なパフォーマンスをしている。また、これらの音楽を演奏しているのが、名門コンセントヘボウ・オーケストラのメンバーが中心になって結成された
Ebony Band。こういった「踏み外し」も面白い。
他の曲は
”Symphonia Germanica”以外、
とりあえずマトモである。ほとんどの曲がキャバレー風の猥雑さ、ジャズ風のリズム、アヴァンギャルドな響き、ヘンテコなセリフがあってもだ。いちおうそれらすべてを採りこんだ「現代音楽」として聴くことができるからだ。
”Zehn Klavierstucke”はシェーンベルクあたりのピアノ曲みたいだし、
”Zebrak”や
”Ukolebavka”もベルクの歌曲のようにアンニュイで、それでいてリリックな感じがする。
”Die Wolkenpumpe”はかなりヘンテコだが、そういえばヴァイル&ブレヒトもこんな感じじゃない?と納得できる。
”Hot Sonata”<ホット・ソナタ>はアルトサックスとピアノための「ソナタ」で、一言ジャジーである。そしてなかなかクールな音楽でもある。
問題は
”Symphonia Germanica”であろう。この曲は歌手というよりパフォーマーがドイツ国歌(国家)をメチャクチャ、ハチャメチャに歌う。<ソナタ・エロチカ>と共に政治、社会をおちょくっているような音楽(?)だ。
多分、潔癖なクラシックファン、例えばフルトヴェングラーの指揮を熱狂的に、くどくどと褒め称える人や、プッチーニのオペラあたりを見て泣きじゃくる人は、この曲を聴いて怒り心頭、ひきつけさえを起こすのではないだろうか。「検閲」を声高に叫ぶのもこのタイプの「善良」な人たちだと思う。
そう、昔はそういった人たち(=集団ヒステリー)が極度に多かったに違いない。作曲者のシュールホフは「退廃音楽」のレッテルを貼られ、当時のドイツ政権(ナチス)に逮捕されてしまった。
そして彼は強制収容所で死んだ。