DISC REVIEW

PROKOFIEV SONATA NO.7 IN B FLAT
RAVEL MIROIRS
STRAVINSKY PETRUSHKA(three scens)

ALEXANDER TORADZE, piano

Recording 1986 / EMI


曲は『戦争ソナタ』、『鏡』、『ペトルーシュカ』。ピアノを習ったことがある人なら、その題名を聞いただけで怖れ慄くような高度な技術と重量級のパワー要する楽曲、腕自慢力自慢には申し分のない最難曲だ。演奏は、言文一致ならぬ、顔演一致。期待に違わぬ筋骨逞しい演奏で、ロシアの野人よろしく、鋼鉄の音を豪快に、そして凄絶に鳴らし切る。
録音もEMIにしては珍しく至近距離で音を捕らえていて、生々しさがダイレクトに伝わってくる。

こういった剛直(ストレート)な演奏を聴くと、ブランドもののドレスやスーツ(いちおうフランス製)をひらひらと着込み、意味深な目配せとニヤけた表情で「エスプリ」を気取ってみたり、「地元の図書館」あたりで身につけた「知性のかけら」に多弁を弄するピアニストがなんだかとても矮小に思えてくる。

男は黙って、無愛想に、苦しそうに、まるで親の仇を執るかのように、ピアノと格闘するのがよい。そう、ピアノは格闘技だ。命を賭けた男の勝負だ。ハムレットのようにうじうじするのではなく、ジュリアス・シーザーを目指すのだ。
……まあ、「ファンタジー」はこれくらいにして(笑)。

トラーゼは、ソ連のグルジア(当時)生まれ。1977年のヴァンクライバーン国際コンクール2位の「タイトル」を獲得している。「試合成績」はそんなものなので、多くの日本人にとってはほとんど「無冠」に等しいのかもしれない。
しかしテクニックは抜群にあり、音も割れんばかりに大きく、無骨なくらいストレートに勝負する──そんな感じがする。

さすがにプロコフィエフの7番ソナタ-フィナーレは、スピードにおいて、ポリーニに約30秒も「負けて」いるが、『ペトルーシュカ』フィナーレは、ポリーニと「同タイム」をカウントしている。

洗練と知性で勝負のライト級、フライ級、せいぜいバンタム級のピアニストが多い中、トラーゼはマニッシュで骨太のヘビー級ピアニストである。

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