DISC REVIEW


バルトーク

管弦楽のための協奏曲
弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽

クリスト・フォン・ドホナーニ指揮
クリーブランド管弦楽団


recording 1988, 1992 / DECDA - LONDON

レコード芸術7月号でまたまた始まった「21世紀の名曲名盤」。評者の数が倍になって、演奏に関する文章も長くなったのはいいのだけれども……。
でも、でもどうしてバルトークのオケ・コンにドホナーニ&クリーブランド管が入ってないの?

まあ、評者の好みと言ってしまえばそれまでだけど、この曲のファースト・チョイスにライナー&シカゴでいいのかな、と思ったりする。自分が古い演奏を聴かないせいもあるんだけど、21世紀の名盤と謳っているわりにはちょっと古い感じが否めないんじゃないかな。

それにライナーに次いでラインナップされていたショルティ、ブーレーズってたしかにレベルの高い演奏だけど、それらに比べてドホナーニ盤が遜色があるとは到底思えない。
以前は僕もショルティ盤が好きだったけど、ドホナーニ盤を聴いた後は、どうも一本調子で力任せの演奏のように思えてしまう。
ブーレーズも好きな演奏家の一人だけど、このオケ・コンに関してはそれほど面白いとは思わない──なんて書くと結局不毛な個々人の好き嫌いで終わってしまうし、実際そうなんだけど、でも……。

というわけで、別にレコ芸の裁定に異議を唱えるわけではないけど(って、思いっきり異議を唱えている)、僕個人の「21世紀の名曲名盤」、そのバルトーク『管弦楽のための協奏曲』の名盤に、ドホナーニ指揮、クリーブランド管弦楽団の演奏を挙げさせていただく。

このドホナーニ&クリーブランド管の演奏。何が素晴らしいかと言って、まずその精緻な音。奥の奥まで見通せるクリスタルな響き。これほど細部に渡って研ぎ澄まされた音を聴かせる演奏はないと思う。
しかもそれらの音すべてが本当に輝いている。まるでその音のキラめきさえ「見える」ような演奏だ。

もちろんドホナーニの演奏は、単なる見通しの良い、スコアを参照してニヤける(わかった気になる)ためのレントゲン写真のようなものではない。精緻精妙な響きで耳を遊ばせながら、そこに仕掛けられたエキサイティングなモーションで、あらゆる瞬間において、感性をダイナミックに刺激する。必要以上に煩わしく、説明的で、スタティックな演奏ではまったくない。ここがブーレーズ盤と決定的に違うところだ。
例えば「導入部」の最初の出だし。何かが起こりそうな「気配」を十分感じさせてくれる導入部。何度聴いてもゾクゾクする。ここで感じるサスペンスは無類のものだ。

特筆すべきは弦の音、その響き。この曲全体を通して、弦の音がまるで生きている有機体のように蠢き、多彩な音色、明暗を放っている。さらにそこに絡むハープの艶と言ったら──セクシーと言ってもよいくらい官能的な響きだ。バルトークの音楽でこんな感興にさせてくれるのはドホナーニ&クリーブランド管ぐらいなものだろう。

弦と言えば、僕の持っているこのCDはレギュラー盤ではないので、カップリングが『弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽』になっている。この曲でもドホナーニ&クリーブランド管は脅威のアンサンブルで、聴くものを圧倒する。そのスピーディな「連続」に心踊らされる。

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