DISC REVIEW

George Antheil (1900-1958)
PIANO MUSIC

永野英樹, piano


Recording 1998 / PIANOVOX


ユニークなレーベルが登場した。 PIANOVOX 。その名のとおりピアノソロ専門レーベルで、1900年以降に発表された作品を射程に置いている。なかなか野心的なプログラム-プロジェクトで、今後のレパートリーがとても気になる。

とりあえず聴いてみたのは、アメリカ生まれの作曲家&ピアニスト、誰が呼んだか、人呼んで不良少年(Bad Boy)ジョージ・アンタイルのゴキゲンな音楽。

まず一曲目の「ジャズ・ソナタ」。2分ちょっとの小品で、たしかにジャジー。リズミカルで愉しい曲だ。1922年に作曲され、多分、「燕尾服の礼装なしでピアニストが演奏できる最初のソナタ」ではないだろうか。できれば僕も楽譜を手に入れて、ダークスーツを着崩し、葉巻を燻らせながら、足を組み、思わせぶりなポーカーフェイスで弾いてみたくなるような音楽だ。

ソナチネは、2分足らずの曲にも関わらず、”機械の死”と大見得を切った副題が印象的で、バルトークの「ブルレスケ」やプロコフィエフの「サーカリズム」のようなちょっと神経を逆撫でする曲調を持つ。まあ、バッド・ボーイ・アンタイルの面目躍如と言えるだろう。

このCDのメイン『百頭女』は、シュルレアリストの画家マックス・エルンストの同名作品(翻訳は河出文庫で出ている)にインスパイアされたもので、45曲からなるピアノのための「プレリュード」である。
エルンストの作品と言っても、ご存知の方も多いと思うが、コラージュの絵にちょっと説明がついたぐらいの、要はマンガみたいなものだ。一曲一曲は極めて短いが、なかなか技巧的な曲揃いで、冴えた腕前が要求される。それにこういった数珠繋ぎのような音楽は、うまくまとめるのが意外に厄介なものだ。かと言って、マジメに神妙にヤラれては、「マンガ」の持ち味が失われてしまう。

その点、アンサンブル・アンテルコンタンポランで活躍している永野英樹の演奏は、技巧的にも、テイスト的にも安心して聴くことができる。

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