DISC REVIEW
FAURÉ : Requiem, Op.48
DURUFLÉ : Requiem, Op.9




Recording 1985
TELARC
ガブリエル・フォーレ(1945-1924) レクイエム 作品48
モーリス・デュリュフレ(1902-1986) レクイエム 作品9

ジュディス・ブレゲン(ソプラノ)
ジェイムス・モリス(バス)
アトランタ交響楽団、合唱団
指揮:ロバート・ショウ



「……実をいうと、この礼拝堂からあの演奏台に通じる通路はないんだ。オルガニストは普通、別の入口──そう、《オルガニストの入口》から演奏台に登る。聖堂の外まで戻らなくちゃならないんだ」
(中略)
木戸の内側はすぐに一直線の階段になっている。床には縄むしろが敷かれ、湿気を帯びた黴臭さが鼻をつく、洞窟のような通路だった。
「オルガニスト専用の通路という名誉とはちぐはぐだろう。この落差が、教会オルガニストという存在の微妙な地位を表しているのさ。それでも、昔はすべてのオルガニストが、この終身の地位をめざしてしのぎを削っていたんだ」

山之口洋『オルガニスト』(新潮文庫)

『オルガニスト』を読むと、「オルガニスト」という職業がピアニストやヴァイオリニストとだいぶ違うことがわかる。自分の無知をさらけだすようだが、オルガニストも他の楽器のプレイヤーと同じで、主に商業コンサートを中心とした活動を行っているアーティストだと思っていた。ただ、オルガンという楽器の性質上、コンサートホールよりも楽曲や演奏に見合った楽器があるからこそ教会なんていう辛気臭い(失礼!)場所で演奏をしているのだと思っていた。

いやー、違うんですね。「オルガニスト」は通常、教会職の一種で、ほとんど終身職。もちろんアーティスティックな演奏会中心のコンサート・オルガニストも多数いるが、それでもやはり「オルガニスト」の主な仕事は、一つの教会に仕えて聖務日課を果たすべきものらしい。ヘルムート・ヴァルヒャにしても45年という長きにわたって、フランクフルトの東方三博士教会のオルガニストだった。

とすると、今では作曲家としてのみ認知されている音楽家も、生前彼らの第一義の職業は教会オルガニストであった人物もかなりいるはずだ。(一方で、教会職とは全く無縁のイメージがある音楽家もいる。例えば狂気スレスレのシューマン、ベルリオーズ、新興ブルジョワジーの楽器ピアノのために曲を書いたショパン、そしてユダヤ系のマーラー、シェーンベルク等)

ガブリエル・フォーレもその一人で、40年にわたって、パリ有数の規模を誇るマドレーヌ教会のオルガニストであった。彼の美しく、調和のとれた端整な音楽を聴くと、さもありなん、と思う。

フォーレのレクイエムは有名曲、人気曲の一つであるが、ここで聴くロバート・ショウの演奏は一風変わっている。通常演奏されるフル・オーケストラ版ではなくて、オルガンと弦楽合奏、ティンパニとハープ、バスーン、ホルン、トランペットという編成。しかもヴァイオリンは《サンクトゥス》のソロ以外ない。

解説によると、これは1893年にフォーレが実際使ったとされる編成で、イギリスの作曲家・教会音楽家ジョン・ラッターにより復元されたものである。ヴァイオリン、木管楽器、トロンボーンがないので、響きはフル・オーケストラ版に比べると確かに地味である。
しかし決して、輝きそのものを失ったわけではない。その分、オルガンが中心になり、より神妙な、より天上的な響きと輝きを獲得している。まるで窓から光の粒子が立ち込めるフェルメールの絵画のように、少しずつ、寡黙に。そしていつのまにか神々しい光に取り囲まれているのを発見する。
最後の《イン・パラディスム(楽園に)》には、信じがたいほどの光が充満している。


モーリス・デュリュフレはパリの聖エティエンヌ=デュ=モン教会オルガニストであった。作曲はデュカスに、オルガン演奏はサント・クロティルド教会のオルガニスト、シャルル・トゥルヌミールに師事。彼の作品はほとんど宗教曲、オルガン曲で、しかもたったの14曲しかない。極めて寡作な「作曲家」である。
彼のレクイエムも、フォーレの作品に通じる静かで限りなく美しい面を持っている。しかも、使用しているテクストは、フォーレのものとほとんど(まったくと言ってよいくらい)同じだ。ただ、フォーレに比べ、より複雑で、トーンは幾分暗い。

編成は3種類あり、フル・オーケストラ版、小管弦楽版、オルガン伴奏版。このCDではフル・オーケストラ版を使用。《ドミネ・イエズ・クリステ》のようにドラマティックな場面もあるが、基本的に「エヴァ」でお馴染みのヴェルディのレクイエムあたりとは、曲の雰囲気がまるで違う。また、ほとんど同世代のメシアンあたりの前衛とも違う。非常に内省的、瞑想的なムードが支配的である。そしてその美しくも神秘的な音楽に、幻惑される。


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