DISC REVIEW
松平頼則




fontec
松平頼則作品集
Yoritsune Matsudaira (1907-2001)

1.「フィギュール・ソノール」管弦楽のための (1957)
2.「舞楽」オーケストラのための (1961)
3.「ポルトレ(β)」2台のピアノと2人の打楽器の為の (1967-1968)
4.「神聖な舞踊による3つの楽章のための変奏曲」(1980)
  (「振鉾三節による変奏曲」)
  2フリュート、2クラリネット及び4人の打楽器の為の (1992)
5.「春鴬囀」



1.野平一郎(p)高関健指揮 東京フィルハーモニー交響楽団
2.ブルーノ・マデルナ指揮 オランダ放送室内管弦楽団
3.山崎冬樹,中川和義(p),瀬戸川正,今村三明(perc)
4.小泉浩,西沢幸彦(fl)鈴木良昭,武田忠善(cl)山口恭範,吉原すみれ(perc)
5.小鍛冶邦隆指揮 東京交響楽団



この作品は古い日本の音楽の或る種の形式とウェーベルンの系統に属する類似系のそれから霊感された「ハイブリッド」である。即ちそこではヴォリューム、音色、強弱、独奏者のヴィルテュオジテ、なかんずく休止符の価値──問──が重要視される。

「フィギュール・ソノール」解説より

先日(2001年10月25日 )、94歳で亡くなった松平頼則の作品集。どの曲も、新鮮な響きと独創的なフォルムを追求した堂々の前衛音楽で、その新奇な音は、彼に付いてまわる「最高齢、最長老」というどこか保守反動的なニオイのする言葉を、まったく空々しいものに変えてしまう。非常に若々しく、挑発的な音楽だ。

最初の曲「フィギール・ソノール」からして、ブーレーズの「ル・マルトー・サン・メートル」を思わせる色彩豊なサウンド。まるで鞠のように、愉しげに弾むピアノの音。そこに加わるハープやチェレスタ、ヴィブラフォンあたりの華奢な響き。貴人の蹴鞠はかくもあったであろう、と感じさせる繊細優美、高貴美麗な音楽だ。

「舞楽」の指揮はなんとブルーノ・マデルナ。この作品はアムステルダムのISCM音楽祭で入選したもので、そのとき演奏された音源が使われている。雅楽を模したような、鈍重とも精妙とも取れる不思議な音圧の中に、知的なプログラムが巧妙に埋めこまれている。演奏者は「コマンド」を操作し、適宜「オブジェクト」を選択できる。

一方、「ポルトレ(β)」の響きはシュトックハウゼン風(たとえば「コンタクテ」、「リフレーン」)、仕掛けはケージ流の「偶然性の音楽」を採用。無国籍のヌーヴェル・キュイジーンと言ったところだろうか。誰が聴いても、反射的に眉間に皺を寄せる、あの「現代音楽」そのもので、国籍も民族も宗教も一切感じさせないインターナショナル/コスモポリタンな作品。当然、白々しい国威発揚や、やれ十字軍だ聖戦だと言った宗教的熱狂とも無縁の無調音楽だ。
今の時代、こういった音楽こそある意味「平和の象徴」なのかもしれない。

「神聖な舞踊による3つの楽章のための変奏曲」、「春鴬囀」はともに舞楽/雅楽の響きを西洋楽器で表現した意欲的な作品。確かに「間合い」なんかは雅楽の果てしなく続く「時間」を感じさせるし、音も雅楽の洗練された「ノイジーさ」が良く出ている。瀟洒で魅力的な響きだ。と言っても僕は本来の舞楽や雅楽は良く知らないのだけれども。


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