ハンス=ユルゲン・フォン・ボーゼ
Hans-Jürgen von Bose (b. 1953)
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- Symbolum (1985)
- ...im Wind gesprochen (1984/85)
- Labyrinth T (1987)
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Christoph Bossert, organ
Melanie Walz, soprano
Martin Hermann & Detlef Zywietz, speaker
Markusvocalensemble, Neue Vocalsolisten Stuttgart
Manfred Schreier, conductor
Junges Philiharmoisshes Orchestra Stuttgart
Recording 1985 -1991 / wergo
まだそれほど多くの作品を聴いていないが(録音が少ない、入手できない)、ハンス=ユルゲン・フォン・ボーゼは、現在、最も関心がある作曲家である。なにしろフォン・ボーゼは、カート・ヴォネガットの小説『スローターハウス5』(Schlachthof 5)をオペラ化した人物だ。他にもツェランの『死のフーガ』、ハンス・ヘニー・ヤーンの『鉛の夜』、ゲーテ『若きウェルテルの悩み』、ジェイムズ・パーディ『63:ドリーム・パレス』等、そのテクストのチョイス、その関心の方向性に惹かれるところがある。
音楽的には──例えば新ウィーン楽派のそれぞれ個性的な3人のドデカフォニスト(シェーンベルク、ベルク、ウェーベルン)の中では、ベルクの影響が大きいようだ。
また新ロマン主義に見られるノイズィーな音響の中に漂う甘やかなメロディー、繊細で微妙な色彩変化、様々な技法をモンタージュのように折衷する方法も、彼の音楽に特徴的に現われる。これはベルント・アロイス・ツィンマーマン、ジェルジュ・リゲティ、ブライアン・ファニホウらの影響、とくにツィンマーマンの引用も含めた「多元性」を持つ音楽、あるいは「折衷的」な音楽から多くを得ているからであろう。
そのことから──そして古典のゲーテやサッフォーからヴォネガットのようなSF的な現代文学を同列に、分け隔てなく、さらりとオペラ化してしまう、その柔軟な感性から──フォン・ボーゼは、いわゆる「ポストモダン」的な作曲家と言えるかもしれない。
『Symbolum』はオルガンとオーケストラのための作品で、重厚なオルガンが印象的だ。響きも多彩で全体的にミステリアスな雰囲気が横溢している。
『...im Wind gesprochen 』は何よりテクストが特徴的である。聖書、ジョルダーノ・ブルーノ、ソフォクレス(翻訳はヘンダーリン)、ハンス・マグナス・エンツェンスベッガー等、そのメッセージ性を帯びたテクストだけで強烈な作風が予想される。事実強烈な音楽で、男性の力強い、怒鳴り声にも似たヴォーカルでその音楽はスタートし、オルガンと打楽器が激しく打ち鳴らされる。
この曲は3部に分かれているが、第2部は一転、ソプラノ独唱、合唱、ベルの音が瞑想的な雰囲気を醸し出すスタティックな音楽になっている。そして3部で再びテクスト(朗読)と歌が渾然一体となったドラマティックな音楽に変わる。ここではテクスト(声)と音楽(楽器)の絡みが絶妙で、独特の効果をあげている。
『Labyrinth T』はベルリン市制750周年を記念して書かれ、作曲家のアーリベルト・ライマンに捧げられている。そういえばライマンも特徴的なテクストを伴った音楽を創出する作曲家であった。ただこの曲は、いかにも現代音楽風、つまり不協和音バリバリ、複雑怪奇な音響、アンチ・クライマックス、ベルク風の暗鬱な表出力を強烈に感じさせるもので、とても「お祝い事」の音楽には聞こえないのだが……評判はどうだったのだろう。
まあ暗い「お祝いの音楽」には、過去にベンジャミン・ブリテンの『シンフォニア・ダ・レクイエム』(日本の皇紀2600年を祝ったもの、当時の日本政府はこの曲を拒絶した、ゆえに現在では一番評価が高い)があったことはあったが。やはり「過去の反省」を踏まえ、重厚でロマンティック、そして扇情的な(例えばワーグナー風)音楽は忌避されたのだろうか。
[Slaughterhouse Five]
http://www.duke.edu/~crh4/vonnegut/sh5/sh5_opera.html