矢代秋雄:ピアノ協奏曲、交響曲
Akio Yashiro (1929 - 1976)
岡田博美(ピアノ)、湯浅卓雄(指揮)
アルスター管弦楽団
Recording 2000-2001 / NAXOS
ナクソス・レーベルによる「日本作曲家選輯」シリーズの第2弾。このシリーズは、武満徹ら一部の作曲家を例外として、国内レーベルでも決して充実しているとは言えなかった日本人作曲家の作品を、外国のレーベルであるナクソスが本格的に紹介していこう、というものである。
ナクソスという国際的なレーベルが手がけていることにより、そのCDは世界中に販路を得、多くの国でこれら日本人作曲家の音楽が手軽に聴けるようになる。まったく素晴らしい企画で、本来ならば国がバックアップしても良さそうなものだと思う。
もちろん多少の危惧がなかったわけではない。国際的なマーケットを視野に入れているということは、もしかして「フジヤマ、ゲイシャ」レベル、あるいは「美しい日本の私」的な、まるで観光ビデオのBGMみたいのが量産されるのでは、と訝っていた。しかしそれは杞憂に終わった。もちろんエキゾチックな日本を代表する音楽も中にはあるのだろうが、この矢代秋雄作品のような堂々の絶対音楽もラインナップされている。今後のリリースも期待したい。
矢代秋雄は、いわゆる前衛や実験音楽とは一線を引いているが、厳格でモダニズム溢れる音楽を書いている。解説によると矢代は、来日したジョン・ケージの「パフォーマンス」に対し、「こんなものは音楽ではないぞー」と野次を入れたそうだ。なかなか頼もしくて良い。まるでドイツ人に対し「きみのフッサールの理解は間違っている」なんて言っているようだ。
まあ、矢代は、パリ音楽院に留学したエリートでもあるし、あのナディア・ブーランジェにも学び、オリヴィエ・メシアンのクラスにも出入りしていた。しかもパリでの卒業作品はフローラン・シュミットに絶賛されたということだ。また記録映画や演劇のための音楽を書き、その中には三島由紀夫とのコラボレーションもあるという。しかし矢代の作品は決して多くない。彼は寡作家だった、それは彼が完璧主義者であったからだ。
ちなみに矢代の父親は日本を代表する西洋美術史家、矢代幸雄である。
ピアノ協奏曲は矢代の代表作で、NHKの委嘱により作曲、1967年中村紘子のピアノ、若杉弘指揮NHK交響楽団により初演された。
曲は「美しい日本の私」的なエキゾシズムや安っぽい感傷とは完全に無縁で、プロコフィエフやバルトークを思わせるバーバリズム、圧倒的なヴィルティオジティ、稠密に設計された形式、色彩的でゴージャスなオーケストラレーションを持つ真にインターナショナルな音楽になっている。岡田博美のピアノも、そういった「硬質の美」を放つ音楽にうってつけの冷徹でシビアな音を奏でている。
交響曲は日本フィルハーモニー管弦楽団の委嘱で作曲され、1958年に初演。1963年にはフランス国立放送局管弦楽団により、パリ初演を果たした。こちらもモダニスト矢代を十分感じさせる、ダイナミックかつエネルギッシュな音楽。ストラヴィンスキーやメシアンを思わせる絢爛たる響きを堪能できる。