MESSIAEN [TURANGALILA-SYMPHONIE]
オリヴィエ・メシアン:トゥーランガリラ交響曲 (1948)
Olivier Messiaen (1908 - 1992)

  • 導入部
  • 愛の歌1
  • トゥーランガリラ1
  • 愛の歌2
  • 星の血の歓喜
  • 愛の眠りの園
  • トゥーランガリラ2
  • 愛の展開
  • トゥーランガリラ3
  • 終曲

ポール・クロスリー : ピアノ
トリスタン・ミュライユ : オンド・マルトノ

エッサ・ペッカ・サロネン : 指揮
フィルハーモニア管弦楽団


recording 1986 / CBS(SONY)

オリヴィエ・メシアンの『トゥーランガリラ交響曲』は、クーセヴィツキーの委嘱により作曲され、1949年、レナード・バーンスタイン指揮、ボストン交響楽団によって初演された。20世紀後半を代表するモニュメンタルな作品であり、大戦後の「現代音楽」はここから始まったと言えよう。

「トゥーランガリラ」とはサンスクリット語に由来するもので、メシアンによると、それは愛の歌を意味すると同時に、歓び・時・運動・リズム・生と死への讃歌でもあるということだ。しかもその「愛」は小市民的喜びや昔の律儀な人たちの静かな幸福感などではなく、「あらゆるもの超越し、みちあふれ、思慮分別を失なわせる、無限の超人的な歓び」、つまり、トリスタンとイゾルデの媚薬によって象徴される愛である。

音楽はその大言に相応しい膨大な楽器群を擁し、とくに様々な打楽器、金属的な音を発する鍵盤楽器グロッケンシュピール/チェレスタ/ヴィブラフォーン、そして電子楽器オンド・マルトノの使用は、サイケデリックなまでの眩い色彩を放出し、麻薬(媚薬)のように聴く者を錯乱させ、狂乱させ、官能の虜にさせ、這い上がることが不可能な恍惚の渦──メールストルムの渦巻のような──に巻き込む。
技術的にも「リズムによる役割」「逆行不能のリズム」という「広大なリズムの対位法」が仕掛けられている。

とにかく凄まじいほどの「情報」が詰まったメガ・ミュージックとも言えるもので、全十楽章を通して、言語を絶する夥しい音の集中砲火を浴びせられる。 『トゥーランガリラ交響曲』はあらゆる音楽の中で僕の最も好きな曲の一つである。

演奏はまずサロネン指揮フィルハーモニー盤を選ぶ。最もクールな演奏かもしれないが、そのリズム処理の上手さに感激させられた。この「官能マシーン」とも言える楽曲をここまでスムーズに操縦する手腕はただ者ではない。この演奏を一番に推したい。
しかし『トゥーランガリラ交響曲』に関しては他にも素晴らしい演奏があるので、サロネン盤以外のCDも簡単にコメントしておきたい。いちおう好きな演奏の順に並べてあるが、その判断基準は、この長大な作品の中で僕が一番好きな第1楽章「導入部」(とくに後半部のガムラン風のリズム/音響が最高に気に入っている)の演奏に拠っている。


ピーター・ドノホー(ピアノ)
トリスタン・ミュライユ(オンド・マルトノ)

サイモン・ラトル指揮
バーミンガム市シンフォニー・オーケストラ

EMI

ラトル盤もサロネン盤に劣らず個性的で気に入っている。例の「導入部」後半のガムラン音響は金属的な音がギラギラと迸る。テンポもスピーディ。まさに「現代音楽」的なノリを感じさせる。オンド・マルトノはサロネン盤と同じ作曲家でもあるミュライユ。


ロジャー・ムラーロ(ピアノ)
ヴァレリー・ハルトマン=クラヴェリー(オンド・マルトノ)

マレク・ヤノフスキ指揮
フランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団

BMG

ヤノフスキ盤も好きな演奏の一つ。とにかく色彩感溢れる音響が美しく、しかも官能的だ。録音も良く、そのため音の解像度が高い。


イヴォンヌ・ロリオ(ピアノ)
ジャンヌ・ロリオ(オンド・マルトノ)

チョン・ミュンフン指揮
バスチーユ・オペラ管弦楽団

DG

これも色彩的な演奏で、とくに弦楽器群がオーロラのような圧力を持って迫ってくる。ラトル盤の金属的な音を強調したものとは対照的だ。


フランソワ・ヴェイゲル(ピアノ)
トーマス・ブロッホ(オンド・マルトノ)

アントニー・ヴィト指揮
ポーランド国立放送交響楽団

NAXOS

テンポは遅めであるが、その分曲の構造がしっかりと見える演奏になっている。録音も良く、弦楽器の音がくっきりと聞える。好みの演奏。


ハワード・シェリー(ピアノ)
ヴァレリー・ハルトマン=クリヴェリ(オンド・マルトノ)

ヤン・パスカル・トゥルトリエ指揮
BBCフィルハーモニック

CHANDOS

テンポ、リズム、音色、どれもバランスの取れた演奏。これもどちらかというと「クール」な演奏かな。低音がゴオーンと響くのも楽しい。


ミシェル・ベロフ(ピアノ)
ジャンヌ・ロリオ(オンド・マルトノ)

アンドレ・プレヴィン指揮
ロンドン交響楽団

EMI

サロネンやラトルの若手に比べるとプレヴィンは旧世代であるが、演奏はなかなか魅力的だ。良い意味でエンターテイメントであり、ロマンティックでしかも官能性も十分ある。


ジャン=イヴ・ティボーデ(ピアノ)
原田節(オンド・マルトノ)

リッカルド・シャイー指揮
ロイヤル・コンセントヘボウ管弦楽団

DECCA

『星の血の歓喜』は豪快でオンド・マルトノもガンガンと疾走していくのだけれども、肝心の『導入部』がどうも鈍重な感じがする。録音が良いだけに残念だ。


ピエール=ローラン・エマール(ピアノ)
ドミニク・キム(オンド・マルトノ)

ケント・ナガノ指揮
ベルリンフィルハーモニー

TELDEC

ピアノがエマール、指揮がケント・ナガノ、そしてオケがベルリンフィルなので期待した(しすぎたのか)のがいけなかったのか……。なんだか威圧的なだけでぜんぜん官能的じゃない。しかも落ち着きがないというか、せかせかしているし。世界最強のオーケストラはやっぱりこんな軍楽隊のような「雰囲気」になってしまうのか。単に好みじゃないだけかもしれないけど。


イヴォンヌ・ロリオ(ピアノ)
ジャンヌ・ロリオ(オンド・マルトノ)

小澤征爾指揮
トロント交響楽団

BMG

まあ60年代の演奏だから仕方がないのだけれども、ちょっと精度が低い。滾るような熱血は好ましいが。

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