パウル・ヒンデミット:カルディラック (1926)
Paul Hindemith (1895 - 1963)
|
Oper in drei Akten op.39
von Ferdinad Lion
|
Siegmund Nimsgern(Br)
Verena Schweizer(Sp)
Robert Schunk(T)他
ベルリン放送交響楽団
指揮 ゲルト・アルブレヒト
recording 1988 / WERGO
なによりCDのカヴァーがいい。マグリットの『脅迫される暗殺者』。僕の大好きな絵画で、マーガレット・ミラーの『ミランダ殺し』のレビューを書くとしたら、ぜひこの絵を使いたいと思っている。
そしてこのヒンデミットの作品も、マグリットの絵画やミラーの小説に通じる奇妙な殺人物語を扱ったオペラである。
まあ、E.T.A.ホフマン『スキュンデリー嬢』をフェルディナンド・リオが台本化したものなので、不気味な雰囲気を持つ作品であることには間違いない。
簡単にストーリーを書くと、パリの金細工師(goldsmith)カルディラック(バリトン)が、客をナイフで次々と殺していくというブラックなもの。しかしカルディラックの娘(ソプラノ)に求婚を申し込もうとした将校(テノール)は、カルディラックの魂を支配している悪魔の姿を目撃する。殺人者カルディラックの魔の手から急死に一生を得た将校は、その狂気の秘密を金の鎖で暴こうとするが、今度は将校がその鎖によって狂気に陥ってしまう。しかし最後はカルディラックが自分の罪を告白し、鎖を手に、死ぬ……。
このヒンデミットの作品も19世紀のオペラように、アリア(歌)とアリアの間に「音楽」があるというものでなく、あくまでも「音楽」主体で進んでいく。ありていに言えば、お涙頂戴の甘美なアリア(歌)は、ここにはない(耳を劈くような女の悲鳴はある)。
もっとも、新古典主義のヒンデミットには、最初から美しいメロディなどは期待していない。厳格な形式を持った、血も涙もない冷酷非情な音楽こそがヒンデミットの魅力であるし。
まあ、ラストでは、それなりの美しさを湛えたソプラノが締めくくるが、それでも全体としては、例えば第2幕のデュエット(12番)──カルディラックと将校による男同士の果し合いのようなデュエット──のように、ハードボイルドな「音楽」で突き進んでいく。