恍惚
SWOON




1992年/アメリカ 原題:swoon
監督:トム・ケイリン Tom Kalin
キャスト:ダニエル・シュラケット Daniel Schlacket、クレイグ・テェスター Craig Chester


パンフレットを見ると、<ゲイ・テディベア大衆賞>を受賞なんてある。そんなカワイイ賞があるのかと膝を打つ。しかしこの作品は「優しい熊さん」のほのぼのとしたイメージとは180度違う、異様な犯罪を扱った、頽廃的で、ざらついた舌触りを持つフィルムである。
映画の題材は、アメリカで1920年代に実際に起こった殺人事件をもとにしている。有名なヒッチコックの『ロープ』もこの同じ事件を扱っており、こちらもまたニューロティックなサスペンスに仕上がっている。
ゲイでユダヤ人でもあるハンサムな二人の青年の犯した殺人は、まさに快楽殺人であり、ニーチェの超人思想の影響もあるが、そこにはゲイの屈折した「美意識」が感じられる。監督もゲイの犯罪者を擁護するでも、ましてや「抑圧されたゲイ」のメッセージを「プロパガンダ」風に流すわけでもない。あくまでも冷酷な犯罪を美しく、異常な精神状態をエレガントに、犯罪者の行動を饒舌に描く。
ゲイがゲイを貶めているのでは、と感じて不愉快になる人もいるかもしれない。たしかに自虐的なまでゲイの異様さ異常さを描いている。そんなときにふいに朗読されるマゾッホのテクストが単なる小道具を超えて、何か意味があるのではないかを思ったりする。もちろん、この映画には黒人の速記者や、車内電話など、時代考証をわざと撹乱するトリックがあるので、監督は「解釈」よりも「官能美学」に訴えたのかもしれない。

この映画にはファック・シーンはないが、主演の二人はハンサムで、雰囲気はかなりセクシーだ。ハンドルを握る手、タバコを吸う手、電話をかける手に、いくぶんフェテッシュを感じる。