TIN DRUM

JAPAN


「ヴィジョンズ・オブ・チャイナ」のミュージックビデオを一度だけ見たことがある。あの伝説の深夜番組、『東京ロックTV』(多分ローカル?)で放映されたときだ。この時期、洋楽を紹介する番組がいくつかあったけど、『東京ロックTV』が一番面白かった。

正統派、小林克也のやたらハイテンションの米日語で、たたみかけるような語り口の『ベストヒットUSA』は、紹介する曲、ランクイン曲が(あたりまえだが米国系で)それほど好みではなく、また、ピーター・バラカンの『ポッパーズMTV』も、バラカン口調がちょっとアカデミック?過ぎて、『N響アワー』よりもずっとしんみりしていて格調高い感じ。

それに比べて、『東京ロックTV』は英国系重視(曜日による)、雰囲気はバラエティのノリ。司会はなぎら健一や中川勝彦、マリアン、小牧ユカ、もう一人名前忘れたけど英語ペラペラのなかなかいい感じの女性、そして元『ポッパーズMTV』のアシスタントだった女。ミーハー(死語か?)な、にわか洋楽ファンには(入口はデュランデュランからです、はい)、うってつけの賑やかで愉しい番組だった。

それでそのジャパンの『ヴィジョンズ・オブ・チャイナ』のビデオ。 なんとデヴィッド・シルビアンを始め、見目麗しいメンバーたちが、中国人民服を着て、妖しげに振舞う。そんな「短絡的」かつMTV的に十分楽しめるゴキゲンなビデオだった。『錻力の太鼓』という前代未聞の境地に達したアルバムとのギャップが微笑ましい。

『錻力の太鼓』は素晴らしいアルバムだ。前作『孤独の影』と比べて、技術的(音響的)にも格段に安定している。アルバムを貫くコンセプトも一貫している。突然変異とでも言いたいくらい完璧な作品。21世紀現在、まったく古びていない。彼らの「実験」は見事に成功した。

なにより音が面白い。耳慣れないエキゾチックな響き、凝ったリズム。エレクトロニックサウンドは、ともすれば、容易くチープに堕する。しかしジャパンの音楽は非常に洗練されたものだ。ある意味、「冷たい」と言っても良いだろう。やたら愛だの正義だの情熱だのと恥ずかしげもなく叫んだり、あるいは、逆に悪びれて反逆をアジテートするのはどうも好きになれない。芸術のための芸術を目指し、クールにキメる。ウォルター・ペイターやオスカー・ワイルドを生んだ国のサウンドに期待するのは、そんな「冷たさ」だ。

THE ART OF PATIES
ロベルト・シューマンの『クライスレリアーナ』を思わせる、「途中から始まったような」出だし。巧妙なリズム操作が魅力的。リリックも芸術のための芸術に相応しい、抽象的で、ほとんど無意味な言葉の羅列。実にクールだ。
TALKING DRUM
鈍重なリズム、のわりには意外に軽妙に音が運ばれていく。ユーモアも感じられる。"My talking drum" のリフレーンは執拗である種の強迫観念さえ感じられる。シルビアンの精神状態はいかに?
GHOSTS
恐ろしいまでに研ぎ澄まされた感性、張り詰めた心理状態を示すニューロティックな作品。極限まで音を減らし、退廃と衰亡をひしひしと物語る。これに匹敵するのはマーラーの「悲劇的」か、シューマンの『予言の鳥』か。ネガティブな視点、ナルシスティックな被害妄想が生んだ危うい感覚。病んでいる、倦んでいる。鬱状態で聴くと最高、癖になる。
鴉は答えた、『最早ない』

エドガー・アラン・ポウ『大鴉』

CANTON
インストゥルメンタル。このアルバムコンセプトのキーとなる楽曲だろう。オリエンタルな曲調を持つ。たしかに興味深い音楽だが、しかし、普段はオミットしている。ぶっちゃけた話、ポップスのインストゥルメンタル曲はどうも単調だ、たとえジャパンにしても。
STILL LIFE IN MOBILE HOMES
サウンド的にはかなり面白い。奢侈でカラフルなエレクトロニックサウンドが刺激的で、リズムもポンッと弾け飛ぶ。中間部の展開も意表を突き、思いっきり愉しめる。途中、日本語のような奇妙な語りもニヤリとさせられる。
VISIONS OF CHINA
題名のとおり、中国風のアレンジが実に、優れて印象的。鈍い音響が、まるで「鈍器」で殴られたような鈍痛を感じさせる。一度聴くと絶対に忘れられない。名曲である。
SONS OF PIONEERS
響きは重く、曲調は幾分暗い。しかし、じわじわと効いてくる曲だ。得難い感慨ももたらしてくれる。
CANTONESE BOY
"VISIONS OF CHINA" と同じエキゾチックなサウンド。このアルバムのコンセプトであるオリエンタリズム=中国趣味が遺憾なく発揮されている。また、「広東の少年 ブリキの太鼓を叩け」というフレーズは、このアルバムの同名映画、ファルカー・シュレンドルフ監督『ブリキの太鼓』のオスカル少年を念頭に置いているのだろう。このテクストを慎重に読んでみたい。
そして、この曲の幕切れ(つまりこのアルバムの幕切れ)の素晴らしさ! 実に効果的で、心憎いまでに鮮やかにキマる。不思議な余韻がいつまでも残る。

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