FORBIDDEN COLOURS

DAVID SYLVIAN / RYUICHI SAKAMOTO


FORBIDDEN COLOURS  禁じられた色彩

このCDは、80年代前半、デヴィッド・シルヴィアンと坂本龍一のコラボレーションをまとめたものである。
『禁じられた色彩』は、映画『戦場のメリークリスマス』の音楽にシルヴィアンのボーカルを加えたもので、オリエンタルな5音階がとても印象的だ。官能的でありながら、どこか儚ない音楽。シルヴィアンの低い声。冷たく硬質なピアノの音。美しい響きの奥底には、やるせない情熱と、深い哀しみが感じられる。

Avec Piano / Merry Christmas Mr.Lawrence という『戦場のメリークリスマス』のために作曲した音楽をピアノソロ用に編曲した楽譜を持っているが、この楽譜を見て最初に思ったのは、シューベルトの『即興曲』に似ているということだった。シューベルトの音楽も、美しく、脆く、儚く、哀しい。そして内に秘めた情熱が、時折、迸る。

BAMBOO HOUSES  バンブー・ハウス

引導を手渡すのは、明滅する信号のようなエレクトロニックな音。その郷愁的な呼びかけに応じると、目の前に、物憂げな遠景が広がる。
ここは何処なんだ! 
まるで横溝正史の映画を見ているような薄気味悪い田舎の風景。そこに舌足らずなぼそぼそとした日本語が絡む。金田一耕介? ではなく、それは坂本龍一の声音。やがて物憂げなシルビアンの吟遊に取って代わり、不安定な距離感と時間軸を持つまったく不可思議なサウンドは、静かに慎ましく解決する。

BAMBOO MUSIC  バンブー・ミュージック

竹の音楽は続く。YMO風の手馴れたアレンジながら、やはり聴く者を魅了する妖術がそこにはある。まるで呪文のように執拗に繰り返される単調な旋律は、メシアンやブーレーズを思わせる金属的な音色を持つ旋回運動によって、唐突に、中断される。
この部分は、またもや横溝正史の映画を思わせる無気味な心象風景を孕んでいる。例えば『悪魔の手毬歌』で巨大な酒樽の中に押し込まれた女の死体。彼女の頭上には、榊に括り付けられた金色の小判が、鈍い光を放ちながらカラカラと揺れている……。

FORBIDDEN COLOURS VERSION U  禁じられた色彩

My love wears forbidden colours
My life belives (in you once again)


僕の愛は禁じられた色彩を帯びる
僕の生は(もういちどあなたを)信じる


"FORBIDDEN COLOURS" は明かに三島由紀夫の『禁色』をベースに置いているだろう。デヴィッド・シルヴィアンもどこかで『禁色』を最高の文学だと言っていた。禁じられた愛は、誰を魅了するのだろうか。
希臘人は外面を信じた。それは偉大な思想である。キリスト教が『精神』を発明するまで、人間は『精神』なんぞを必要としないで、矜らしく生きていたのである。

三島由紀夫『アポロンの杯』

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