suede




  • SO YOUNG
  • ANIMAL NITRATE
  • SHE'S NOT DEAD
  • MOVING
  • PANTOMIME HORSE
  • MY INSATIABLE ONE
  • THE DROWNERS
  • SLEEPING PILLS
  • BREAKDOWN
  • METAL MICKEY
  • ANIMAL LOVER
  • THE NEXT LIFE
サウンド的にはわりとオーソドックスなつくりだけど、バーナード・バトラーのギターが、蛇のようにヴォーカルに絡み、見事なカウンターパートを奏でている。曲による音色の変化も自在らしい。また、ときどき鳴らされる、ひんやりとしたピアノの音も印象的だ。

しかしなんといっても 乱調気味のヴォーカル──軟体動物のような、腰が砕けたような歌い方、どこか喘ぎ声にも似た、感極まったような独特の声音──が耳につく。たぶんこの人、歌うことによって人一倍性感帯が刺激されるのだろうな。全体的にちょっと暗めの雰囲気を取りながら、独特の浮遊感を漂わせている。この浮遊感は悪くない。

もっともこのアルバムのテーマはセックス(しかもゲイセックスやインセスト)、そして殺人と言った甘美な毒=禁断の快楽なので、この身振りは狙ったものだろう。決して「月並み」な悦楽に充足している人たちの身振りではない。

スウェードの音楽を聴くと、こういったアモラルな行為の「経験者」にもアモラルな行為に憧れる「非経験者」にも、電気羊が見るであろう夢とふくろうの叫びにも似たエクスタシーを(もう一度)体験(共有)させてくれる。ためしに「ザ・ドラウナーズ」や「アニマル・ナイトレイト」のリリックを読んでみるとよいだろう。悦楽の意味とその耽溺が理解できるはずだ。
そして僕たちは「アニマル・ラヴァー」、つまり快楽のエリートになる資格を持つ。

充足した人生を送るためには四つのことをしなくちゃならない、っていわれてるの。なんだかわかる? 教えてあげるわ。木を植える、詩を書く、同性とセックスする、誰かを殺す。

ルース・レンデル『石の微笑み』(羽田詩津子訳、角川文庫)

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Mireille Mathieu singt
Ennio Morricone


Mireille Mathieu
BMG


  • Un jour tu reviendras
  • J'oublie la pluie et le soleil
  • La califfa
  • L'éblouissant lumière
  • Il ne reste plus rien
  • Je me souviens
  • La donna madre
  • Da quel sorriso che non ride più
  • La mache de Sacco et Vanzetti
  • Melodie
エンニオ・モリコーネの音楽をいろいろと漁っていたとき、たまたまこのCDが目に付いた。ミレイユ・マチュー? シャンソン? フレンチ・ポップ?
初めてきく名前だけど、何故か惹かれるものがあった。オーラが漂っていた。買ってみた。聴いてみた。すごく良かった!
このCDはフランスの歌手ミレイユ・マチューとエンニオ・モリコーネのコラボレーションで74年に録音された。
なんていうんだろう、どこかで聴いたような、懐かしい気分にさせてくれる音楽だ。気取った言い方をすれば、ちょっと古いフランス映画を見ているような「気分」、でもそれはヌーヴェルバーグとかじゃなくて、ちゃんとしたストーリーがある映画だ。例えばアラン・ドロンが出ていた『冒険者たち』のような(あの口笛のメロディ!)、見ていて微かな感傷に浸れる映画。
彼女は形式主義者だった。生まれながらにして、流行遅れだった。演劇には筋がほしかった(シェイクスピアのように)、音楽にはメロディがほしかった(ヴェルディやシュトラウスのように)、絵画には自然のイメージの再生産であってほしかった(レンブラントやティツィアーノやラファエロのように)。彼女を満足させるのは、このような芸術家だった。

コーネル・ウールリッチ『夜の闇の中へ』(稲葉昭雄訳、早川書房)

そう、この音楽には歌心というか感情にダイレクトに訴える「必殺の」メロディがある。モリコーネのどこか人懐っこくもあり、寂しげでもあり、そして温もり(暖かさ)もあるメロディ。
70年代の録音だからアレンジもそれなりに古い。でもその古さが──また気取った言い方をすれば──セピア色の過去の想い出に結びつく。

そしてミレイユ・マチューの歌い方も独特だ。この人の特徴であろう伸びやかな声、強い巻き舌、歯擦音の声にならない声──音にならない音。そこから独特のオーラが起ちあがる。
それは良く言えばドラマティック、悪く言えば芝居掛かった非洗練と言えるかもしれない。しかしその芯の通った声は一度聴いたら絶対に忘れられない。強烈な印象を、聴くものに刻み込む。圧倒的な表現力だ。

とくに "Il ne reste plus rien"(『愛で死ぬ』の主題歌)や "Da quel sorriso che non ride più"(微笑を忘れて)の哀愁を帯びたリリシズム、"La donna madre" の情熱(情念?)。
まったくあらがいようもない魅力を放つ音楽が、そこにはある。

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