DURAN DURAN




  • Rio
  • Planet earth
  • Lonely in your nightmare
  • Careless memories
  • My own way
  • Hungry like the wolf
  • Nightboat
  • Girls on film (night version)
  • Save a prayer
  • The chauffeur
  • Is there something I should know?
映像の素晴らしさを教えてくれたのは、コクトーでもマン・レイでもヒッチコックでもブニュエルでも…(その他有名な映画作家を随意思い浮かべること)…でもない。無論ジャパニーズ・アニメでもない。
あらゆる映像作品の中で、最高に素晴らしい傑作として、熱狂的に、衝動的/反射的に受け入れたいもの──それはデュラン・デュランの一連のミュージック(プロモーション)・ビデオに他ならない。

しかしこんなことを書いても多くの人の賛同は得られないだろうし、それどころか反感すら買うかもしれない。プロモーション・ビデオはその名の通り一種のCMである。映画(物語、芸術)と比べるのが間違っているし、あるいは、音楽そのもの(オリジナル)よりも、プロモーション・ビデオを賞賛するのはアーティストに対し失礼ではないかと。

ご説ごもっとも。重々承知している。その上で、デュラン・デュランのビデオにおける芸術的なニオイと「大きな非物語」(東浩紀)を書いてみたい。多分これも一種「オタクのスノビズムとシニシズム」(これも東浩紀)に近い感覚だろう。
<リオ> 
曲はいかにもデュラン・デュランらしい軽快な音楽。どこかのリゾート海岸で撮影されたもので、美しい背景が見物だ。ストーリーは謎めいた美女をめぐる他愛もないものだが、デュランのメンバーも楽しそうでなかなか良い感じに仕上がっている。ロジャーが蟹に足を噛まれたり、サイモンが海に落ちて網で引き上げられるなどユーモア感覚も忘れていない。見ているこちらも楽しくさせられる。
ディレクターは Russell Mullcahy で<ガールズ・オン・フィルム>、<ケアレズ・メモリーズ>、<ザ・ショウファー>以外すべて担当している。

<プラネット・アース>
このビデオを見てデュラン・デュラン、ひいては洋楽にハマッた記念すべき第一号。
まず冒頭、スカイブルー系膣状空間の中で、ロジャーが首をぐるりと回す。そのとき思ったのは、イギリス人ってなんて鼻腔が高いのだろう、ということだった(笑)。デュランのメンバーでは、サイモンに次ぐお気に入りのロジャーなので、顔のアップは嬉しい限り。

この作品では、時々挟まれる抽象的なイメージが忘れ難く印象的だった。また様々な美しいエフェクトが駆使されており、まるで幻想的な絵画を見ているよう。とはいうものの、やはりサイモンのセクシーな姿態が一番魅力的だ。多分、最初に意識して好きになった男性はサイモンだと思う。

<ロンリィ・イン・ユア・ナイトメア>
曲はたいして面白くないが、サイモンが出ずっぱりで、皮ジャンからスーツまで着こなしている。まあまあかな。

<ケアレス・メモリィズ>
わりと好きな曲。演奏シーンと物語のイメージが交互に挟まれる典型的なミュージック・ビデオ。皮のパンツにクリーム色のブラウスで悩ましく歌うサイモンが最高。音楽がアップテンポなので、ロジャーも一生懸命ドラム叩いているようだ(笑)。でもニックのあのパジャマみたいな衣装はいだたけない。

<マイ・オウン・ウェイ>
珍しく金はぜんぜんかかっていないだろう。でもフォトジェニックなメンバーが演奏しているだけで、実にスタイリッシュな映像に仕上がってしまう。まあ、ロジャーの正装姿が見物か。ニックは化粧が濃い、ケバい。

<ハングリー・ライク・ザ・ウルフ>
デュラン・デュランのビデオを代表する作品だろう。クオリティは非常に高い。映像もとても凝っていて、そこらへんのアートフィルムに負けずとも劣らない。タイかスリランカあたりのロケーションで、ジャングルの風景も見物だ。

<ナイトボート>
これはオカルト・ホラーを扱った異色作。不気味な雰囲気が見事に演出され、ちょっとした短編映画を見ているようだ。メンバーがゾンビに襲われるシーンは圧巻。みんな役者だなあ。

<ガールズ・オン・フィルム>
一番気に入っている作品。これは凄い。この作品こそ、20世紀を代表する映像芸術の一つだと思う。このビデオ作品を見たときアドレナリンが体内を駆け巡り、頭がずきずきと疼いたのを憶えている。

全体の趣向としては、ボクシングやレスリングのような「リング」がセットされ、そこに様々なコスチュームの女性たちが入れ代わり立ち代り登場し、そこで「プレイ」する。それは、ポルノグラフィーすれすれ、というよりはっきりソフトコア・ポルノになっていて、セクシャルなイメージ=メタファーがリング上で繰り広げられる(ピデオのパッケージにはこの作品と<ザ・ショーファー>はR15に指定されている)。

ディレクターは Kevin Codley & Lol Creme 。いったいどういう人物(たち)なのか、他にどういった活動をしているのかとても気になる。

このビデオではナイト・ヴァージョン(ロング・バージョン)を使用。まずメイキング風なシーンから始まる。セットが準備され、出演者たちが集まり、着替え、メイク、雑談。そしてスタート。

最初のシーンはセクシーな下着姿の女性二人。仲良く並んで、枕を持ってリングに登場。リングには平均台のような棒が置かれ、彼女たちは端と端に分かれる。そして二人は棒を股間に挟み滑るようにして、棒の中央にやってくる。
この棒は言うまでもなく男根を表しており、彼女たちは棒=男根をヴァギナに挿入する(しかも棒=男根にはご丁寧にも白濁したヌメヌメとした液体が塗ってある)。
向かい合い、対峙した二人は、相手に枕をぶつけ、戦う。枕は破れ、中から羽毛が飛び交う。白い羽毛の雨あられ(噴出)の中で女たちはキスをする。そして彼女たちは股間に白い液体を滴らせながら、リングを去る。

次は、バストの大きな褌姿の女性。そうジャパニーズ・スモウだ。リングでは男性力士がしこを踏んでいる。女もしこを踏み、彼女のヒップが画面にアップになる。勝負は女性力士が男性力士を投げ飛ばし、一本! 女性力士は礼儀正しくお辞儀をしてリングを去る。

リングには先ほどの負けた男性力士が簡易ベットに寝ている。そこに看護婦姿の女性が登場。力士をマッサージし介抱(慰安)する。「透明なローション」を彼の身体に塗り捲り、最後には彼の身体に跨る。男は(当然)昇天、女は誇らしげにリングを後にする。

さあ、次は女カウボーイ(ガールか?)。馬の仮面を被ったビキニ姿の黒人男性に跨り、颯爽と登場。リングの中央に馬(男)を引き摺りだし、調教。彼女はエロティックな液体を搾り出し、馬(男)の体を洗う。気持ち良さそうにいななき、仰け反る馬(男)。完全に彼女の手中に落ちる。調教終わり。

次は一番感心したシーン。リングの中央には子供用の小さなゴムのプールがセットされてある。そこに現われる水着姿の女性。プールの傍には逞しいプール監視人(男)が監視台に座っている。女は突然プールに落ちる、溺れる、助けてと叫ぶ。すぐさま監視員の男性がやってきて彼女に人口呼吸。やがて息を吹き返した女は男に抱きつき、女は男をプールに引きずり込む。
女は水を滴らせながら、リングを後にする。リング上の子供用プールには監視員の男が沈んでいる。

そしてクライマックス。画面には形の良い乳房がアップになり、さらにそこに氷が当てられる。乳首はピンと勃起している。ここのシーンはいはゆる泥レスだ。片や毛皮を脱ぎ上半身裸、透明なビキニの女、片や動物のように腰を振っているブロンドの女。二人は泥の中でエロティックな死闘を繰り広げる。互いに泥を塗り合い、相手を倒す。勝負は終わり、勝ったほうの女性は、ホースの水で体を洗われる。彼女は嬉々としてリングを去る。
THE END.

見終わった後、考える。この映像は本当に「ポルノ」と言えるだろうか。もしそうだとしたら、デュラン・デュランの音楽は、ポルノやピンク映画のBGMに過ぎなくなる。そんな倒立があるだろうか。そもそもプロモーション・ビデオは、その楽曲をプロモートする「広告」ではなかったのか。
この作品は、見るものを省察させずにはおかない。自分たちはいったい何を見ているのか、何を見せられたのか。

そう思うと数々のエロティックなシーンは、すぐさまシニシズムに取って変わる。ちょうどエドゥアール・マネの問題作が、エロティシズム以上にシニシズムを孕んでいるように。

<セイブ・ア・プレイヤー>
たしかスリランカロケだと思う。美しい映像が惜しげもなく使われる。風光明媚な自然、仏教遺跡がとても印象的だ。音楽もデュラン・デュランというよりもジャパン風。

<ザ・ショウファー>
<ガールズ・オン・フィルム>と並ぶ問題作。ディレクターは Ian Emes 。モノクロ映像が素晴らしく美しく、第一級の芸術作品と断言できる。しかもここで扱われているモチーフはレズビアニズム。非常に耽美的でまるで古いフランス映画を見ているようだ。溢れんばかりの詩情、繊細な美意識を感じとって欲しい。音楽も実にクールだ、
僕はデュラン・デュランをただのアイドルバンドだと軽く見ていた人たちに(ローリング・ストーンやソウル・ミュージックのファン、ときにはクラシック音楽ファンにも)、よくこの作品を眼前に付きつけてやった。

<プリーズ・テル・ミー・ナウ>
曲はそれほどでもないのだが、映像は抜群に好きだ。なんといっても全編これマグリットのようなシュルレアリスム的映像を見ているような気分にさせてくれる。リドル・ストーリー、メタ・イメージの宝庫。完成度は非常に高い。傑作の一つだろう。

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