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"GAY SEX, A MANUAL FOR MEN WHO LOVE MEN"
by Jack Hart

 ─ 恋愛&セックス・ガイド/マニュアル ─
alyson books
ISBN 1-55583-468-X


フェリス・ピカーノらが1977年に編纂した画期的な"The New Joy of Gay Sex"(翻訳あり)が20世紀のゲイの恋愛&セックスマニュアルならば、この Jack Hart の"GAY SEX"は21世紀の格好のガイド/マニュアルだろう。

ここでは男と男がバーやネット、そして街角でどうやって出会うのか、と言うことから、マスターベーション、セックスの体位、様々なセックス・ヴァリエーション/ファンタジー(ボンデージ、S/M等)、そしてコンドームの種類、セイフセックスの方法まで、ありとあらゆる「ゲイ関連情報」が網羅されている。

まさにガイド/マニュアルに相応しく、それぞれのトピックが、まるで辞典のようにアルファベット順に整然と説明されている。

例えばFの項目では、"FANTASY", "FETISH", "FINDING A LOVER", "FIRST LOVE", "FISTING", "FOOD FANTASY", "FORESKIN", "FRENCH KISSING", "FROTTAGE", "FUCKING" 等のトピックがあり、これらのトピックについての「説明」、「ハウ・トゥー」、「安全性」(もちろん"FISTING"について)、「関連ウェブサイト」等が書かれている。

もちろん、確かにマニュアルなのだが、しかし、これが読み物としてなかなか面白い。
"FOOD FANTASY"って何なのかなあ、と思ったら、なんのことはない、COCK や ASS にホイップクリーム、蜂蜜なんかをぬって舐めたりすることなのだが、読むとちょっとやって見たい気になってしまう(笑)。
また、いまさら"FIRST LOVE"か、と思っていたら、「あなたが相手に対しての”最初の人”でもあります」って書いてあって、ああ、そうだなあ、って妙に納得してしまった。

全体として、確かに露骨なゲイ・セックスを扱っているが、例えば"DATING" (デート)や"REJECTION"(拒否)のトピックに見られるように、どうやったらゲイ同士のより良い「コミュニケーション」、優しい「リレーションシップ」を築くか、と言うことへの気遣いが感じられる。
なんとなくいろいろな意味で新鮮な気分にさせてくれる好著であると思う。
また、KENT 氏によるイラストもとても詩的で素晴らしく印象的であることを付け加えておきたい。

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Q.ベル著『ブルームズベリー・グループ』

 ─ 評論/社会史 ─
出淵敬子訳
みすず書房


一九〇〇年という時期には、現代国家が「血縁の意識」を信頼したとき、その国家は何をすることができるか、人々にはわかっていなかった。しかし、もし人間が権威者の声に屈服し、宗教や国家主義、性的な迷信のつよく理不尽な要求に従おうとするならば、愛にもまして憎しみがその結果生まれることは明らかだった。キリスト教徒のキリスト教徒に対する、また国家の国家に対する憎しみ、オスカー・ワイルドを悩まし、ソクラテスを殺した盲目的な理性を欠いた憎しみ、これらの憎しみはみな理性のなさの結果起こった社会の共有感情だった。理性の眠りは怪物を、暴力という怪物を生み出す。それゆえもし、世界に慈愛の心が生きながらえようとするならば、理性が絶えず目覚めていることがぜったいに必要なのである。
 ──本文P101より

この本は、20世紀初頭イギリスに存在した「ブルームズベリー・グループ」というユニークなグループについて書かれた研究書である。
ブルームズベリー・グループは、リットン・ストレイチー、ヴァージニア・ウルフ、ロジャー・フライ、メイナード・ケインズ、E.M.ファスター、バートランド・ラッセル等まさにイギリスを代表する知識人たちからなり、思想、芸術、文学、道徳に多大な影響を与えた。

彼らの多くはホモセクシャル、またはバイセクシャルであり、そして当然のごとくフェミニストでもあり、そのことがグループの思想形成に何らかの影響を与えたことは想像に難くない。彼らはヴィクトリア朝の古い因習に果敢に抵抗していたのだ。

さらにこの本では、ブルームズベリ・グループを取り巻く状況と、関わりのあった人物たち──例えばH.G.ウェルズ、D.H.ロレンス、ウィンダム・ルイス、ルパート・ブロック等──とのエピソードが紹介され、この時代のイギリスの文芸、精神史に感心がある人ならば非常に興味深く読めると思う。

最近になってブルームズベリー・グループについてのより詳細な研究書がいくつか出るようになったが、それでもこの本の価値は変わらないと思う。それらがいかに資料的整備が行われ、より客観的な(アカデミックな)指摘がなされていてもだ。
それは、作者クウェンティン・ベルが「ブルームズベリーの空気」の中で育ったという事実だけでなく、ブルームズベリー・グループに対する「愛情」が痛いほど感じられ、そのことが無味乾燥な学術書とは一線を引いた読み物としての「感動」を与えてくれるからだ。

ベルの言葉には説得力がある。単なる精確で詳細な資料ではなく、ブルームズベリーの精神をとても良く感じさせてくれる文章だ。

自分たちに賛成しないといって異教徒を焚殺したり、漠然とした不安を抱かせるといって魔女を火刑に処した人々は、生まれつき残酷な人間ではない。彼らは単に偏見をすてて理性に従うことを拒否した人々なのである。
 ──本文P112より

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