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”さようならが増えるばっかりで、こんにちははもうそうはないでしょう。さようならも、もうこれっきりのさようならがますます多くなって、こんにちはは━そう、ほんのゆきずりばかり・・・・・”

シリーズキャラクター、メキシコ人弁護士トム・アラゴンが最初に登場した作品。トムの妻ローリー・マクレガーとの微笑ましいエピゾードが楽しく、ちょっと意地悪で、毒舌を振りまくが、愛すべき人物であるチャリティ・ネルソンとのやりとりも絶妙。
トム、ローリー、チャリティはこれ以降の作品でも登場し、素晴らしいコメディー・シーンを堪能させてくれる。聴力を失ったベートーヴェンが後期の作品で独特の境地に達したように、視力を失ったミラーが後期作品で達した境地。老境に入った作者の確かな人間観察。老境の武器こそ、「直感」だろう。はずれることはない。
これらの後期作品によって、ミラーの得がたいユーモアが存分に味わえる。これこそ最高のエンターテイメント！！！

BGM　ベートーヴェン：ピアノ・ソナタop111　２楽章アリエッタ、マウリッツィオ・ポリーニの演奏で

ストーリー
トム・アラゴンはギリー・デッカー（Ｇ・Ｇ）に前夫Ｂ・Ｊ・ロックウッドの行方を捜してほしいと依頼をうけた。Ｇ・Ｇ は再婚し現在の夫マーコー・デッカーと暮らしているが、彼は不治の病に冒された廃人だった。「若いピチピチした裸のフランス男がワンサカいる中で、ギリーは半身不随の花婿をしょいこんじゃったわけね」（By チャリティ） 彼女は過去に愛したＢ・Ｊのことを懐かしみ、先行きのない人生の最後に再会することを切望しているようだった。
「奥さんはそれほど変わっておられませんよ、少しやせて、髪の毛の茶色が少し薄くなっているのと、笑いじわがちょっと深くなっているぐらいで」 「これは笑いじわじゃないわよ、アラゴン。泣きじわです。そう確かに深くなっているわ」
Ｂ・ＪはといえばＧ・Ｇを裏切り、メキシコ人の使用人トゥーラ・ロペスと「ドリームボート」で駆け落ちした。彼はメキシコの貧しい村を開発し、リゾート地にしようとする壮大な夢をもっていた。「彼は情にもろいし、私は頭がもろかったし、あるいはその逆かもしれないけど」　しかし事業は失敗し、彼は詐欺で投獄された。トゥーラとの間に生まれた子供も不具で知恵遅れだった。アラゴンはＢ・Ｊ捜索のためメキシコの村へ向うが、そこはＢ・Ｊの夢の残骸だけ生々しく残る廃墟だった。

この作品を読むにあたって、やはりミラーの私生活のことが思い出されてならない。Ｇ・Ｇは廃人同様の夫を介護しているが、これはアルツハイマーで同じく廃人になってしまった夫ロス・マクドナルドを介護する妻マーガレットとどうしてもだぶってしまう。文中に「安楽死」という言葉で出てきて、自分のプラブも抜いて死にたいと叫ぶＧ・Ｇの姿がハッさせる。