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「神様」ルイーズは口走った。「チャーリーみたいなひとを、あなたならどうやって助けますか?」
ストーリー
チャールズ(チャーリー)・ガウアン、32歳。彼は過去、少女に対する行過ぎた行為によって、精神病の治療を受けた。現在は退院し保護観察付きながら慎ましい社会生活を行っている。弟思いの兄ベン、チャーリーの恋人ルイーズに暖かく見守られ、すべてが順調に思われた。ジェシー・ブラントという少女に遭遇するまでは。
保護観察官によって、彼は子供との接触が禁じられているのだが、ジェシーを見かけた途端に暗い衝動に押しやられ、彼女を保護してやらねばという義務感に苛まれる。チャーリーは手紙を書く。
娘さんは華奢な体にたえきれないほどの危険をおかしています。子どもは人生の残酷な危害から守られ、しっかりと骨が育つように美味しくて栄養豊富な食事を与えられねばなりません。衣服も同様です。もっと服を着せ、手足などをかばってやるべきです。神の名において、可愛い娘さんにもっと配慮ある世話をされますよう。
だが、この手紙はジェシーの家ではなく、親友のメアリー・マーサ・オークレイの家に届けられる。チャーリーは家を間違えていたのだ。そのオークレイ家では、両親の離婚問題が泥沼化しており、ケイト・オークレイの別れた夫シェリダンに対する憎悪は、度を超え、狂気さえ帯びていた。チャーリーの手紙は、その新たな火種になっていった。
また、ブラント家の隣人アーリントン家でも、ヴァージニア・アーリントンの異常といえるほどのジェシーへの執着ぶりのため、夫のハワードとの間に口論が絶えなかった。
そんななか、ジェシーが失踪する。チャーリーの過去を知る兄ベンとルイーズは、疑念のため苦悩する。
「百回、五百回、わたしはあいつを見てきた、苦しんでいるのを見てきた。わたしは考えたよ、こいつはわたしの弟だ、おれはこいつが好きだ、こいつのためなら片腕でもくれてやる、しかしこいつに対して、おれがしてやれる最良のことは、すべてを終わらせることだとな」
「チャーリーを殺すってことね」
「そうだ、あいつを殺す、そんなにおそろしそうに見ないでくれ。あんただって遠からずおれとおなじ気持になるかもしれん」
だがいちばん苦しんでいるのは、チャーリー自身だった。
”ジェシーはおれの魔人(fiend)だ”
チャーリーが過去に少女に対し犯した罪は、書かれた年代からしてか、具体的には描かれていない。ルイーズはベンとの会話から、チャーリーはベンの真似をして少女と「結婚」したかったのではと推測する。事件は兄ベンが結婚して間もなく起こったからだ。
また一方、チャーリーの幻想のなかで少女は彼にこう威嚇する”ここは自由の国だ、あたしは好きなことができる。もし警察にいいつけたら、あたしのなかに赤ん坊をつくろうとしたっていってやるわ、そしたら、あんたは牢屋に閉じこめられる、ははは”
この作品は読み手に重大な選択を迫る。チャーリーに同情を寄せるか、否か。またそういった精神的な障害を肉親に持ってしまったベンの立場だったらどうなのかと。チャーリーを翻弄する少女たちは、大胆で大人びていて小賢しい。それに対してチャーリーはあまりにもイノセントにそして無防備に描かれている、ように思われる。
”カマドウマの幼虫をはじめて見たときには、とんでもない間違いをしてしまったよ。地面に仰むけになってたんだ。肌色で、もぞもぞとうごめいて・・・・手や足みたいに見えたんだ。ほんとうの人間の赤ん坊だと、こんなところで生まれるんだなって、思った。ベンにたずねると、ほんとのとこを教えてくれたけど、おもしろくはなかった。赤ん坊が花みたいに土のなかで育つって考えるほうが、よほど愉快で自然というものさ。最初からやりなおせるものなら、そういう具合にはじめてみたいな。土のなかから花みたいに咲きほころびて・・・・”
ミラーはチャーリーに手紙を書かせる。その際彼に過ちを犯させる。彼はジェシーは友達(friend)と書くところを魔人(fiend)と書いてしまうのだ。この言葉はキーワードとして、効果的に使われ、作品はミステリとして成功を収める。では失敗は?