ブロンドの長髪の少年がいつもの解剖台に横たわっている。その少年の顔をウェインが何度も殴りつけている。ディーンは肛門を犯しながら、乳首を切り取ろうとしている。
「あれ見てよ」ブラッドは自分の股間をこすりながら言う。「ぼく、セックスしちゃうだろうな。あんなふうに……殺されるならね。キスして愛しているって言うね。マジだよ、わかるだろう? すっげー、これ、股間にびんびんくるよ」
--p.53
この作品は、実際にアメリカで起こった連続殺人事件を元にしている。
1978年、33歳のディーン・コルルは6発の弾丸を食らって殺された。加害者は17歳の少年ウェイン・ヘンレー。ウェインは当初、正当防衛を主張したが、事態は意外な方向に進展する。
殺されたディーンは、実は、サディスティックな性癖を持つ大量殺人者だったのだ。彼は何人もの少年を陵辱し、拷問を加え、殺害していた。そしてディーン名義のボート小屋からは27体の死体が発見される。
しかもディーンを殺したウェインは、もう一人の青年デイヴィッド・ブルックスと共にディーンの少年殺害に手を貸していた。この二人の共犯者は99年の懲役を課せられることになる。
と、「ノワール」小説が一本書けそうなヤバさであるが、デニス・クーパーは、この題材をポストモダン風な趣向を持つ作品、つまりメタフィクションにしている(またこの本自体写真家ネイランド・ブレイクと合作したアード・ブック・スタイルになっている)。
@ディーン・コルルの「助手」であったデイヴィッドが、人形劇によって彼らが犯した殺人の顛末を披露する。
A人形劇の幕間に、劇の内容を補足するふたつのノンフクションを「観客」に読ませること。
B「観客」はテキサスの大学教授と彼の学生であり、教授は後でデイヴィッドに手紙と学生が作成した人形劇の研究レポートを送付する。
この趣向によって、極めて陰惨で暴力的でセクシャルなストーリは、ペニスにではなく、脳に血液を運ぶことになる。
『ジャーク』は、絶対零度のポルノグラフィーだ。
「じゃあ、ぼくを殺しながら、みんなでセックスができるね」
--p.44
デニス・クーパー『ジャーク』
Dennis Cooper / Jerk(風間賢二訳、白水社)