Gay Passage

赤江瀑 『アポロン達の午餐』
監物と、黒岩が……抱き合っていたんですよ。それも、素っ裸で。そう、二人は抱き合っていた……そんな風に、僕には見えたんです。でも正確に言えば、彼等は、お互いの体に触り合っていたんですね。胸、肩、腹、股、そして足……二人は、実に満足そうに、熱心に触れ合っていました。じっと見ていると……そう、何か一種の儀式みたいな……とても生真面目な……一心な感じでした。お互いの筋肉を点検し合っていたのです。
ストーリーは推理小説風に進んでいく。ある男子高校生、監物美臣がトラックに轢かれて殺された。そのとき彼は全裸であった。学校には監物が<アポロン>という秘密の裸体クラブのメンバーであったという告発が届き、中には剣道部主将黒岩秋則の全裸写真が同封されていた。また監物の日記の一部が意図的に教師の机に置かれていた、何らかのメッセージを放っているかのように。

精神分析医であり学校医である「わたし」は、監物美臣の死を追ってゆく、まるで監物が彼の患者であり、診察を欲しているかのように……。
でも、そのことがどんなに素晴らしい……目のさめるような経験だったか……とにかく、脱ぐってことの凄さを僕は知ったんです。それも、一人で脱いでいるんじゃなく、他人と脱いで暮らすってことが……ほんとうにめざましい感じでした。暫くは夢中でした。筋肉作りにも励みました。
しかし「わたし」が学校に足を踏み入れた途端、黒岩の「剣道の面」の中に毒ムカデが入れられるという事件が起こり、彼は顔を負傷する。そしてさらに……川辺で黒岩の死体が発見される。その死体もまた、全裸であった。
<アポロン>のことは口外出来ない。破約したメンバーは、制裁を受ける。それが、クラブの掟なんだ。



赤江瀑 『アポロン達の午餐』
(文芸春秋「アポロン達の午餐」所収、装丁 建石修志)


Back Page / Gay Passage