一四のとき、一冊の《ライフ》を見つけた。ストーン・ウォール暴動の写真がたくさん載っていた。ページがボロボロになるくらいいつでもそれを見ていた。大勢のクィアーたちが、たくさんの荒っぽいクィアーたちが警官たちと戦っている写真がぜんぶ載っていた。頸の両脇に走る静脈が、声を限りに叫び上げるせいでくっきりと浮き出ている写真が何枚も写っていた。そんな写真を切り抜いてハンクに送りつけた。
クレアドンという田舎町でハンク・マッコールという男が自殺した。ガソリンを浴びての焼身自殺だった。同じ日の新聞には、公衆便所で乱交をしていた男たちが摘発され、氏名が公表されていた。ハンク・マッコールの名前もその中にあった。
これは保守的な町での見せしめ、あるいは一種の「魔女狩り」であろう。
「おれ」(サミー)はハンクと同じクレアドン出身で、彼の友人で、かつての恋人でもあった。
「息子がクィアー(変態)だと仮にもはっきりしたら、おれは即座におまえを撃ち殺してやる。それからあのサミー・ウィルズとまた話でもしてみろ、神に誓っておまえを殴り殺すからな」
子供のころ、ハンクの父親はこう言って「おれ」(サミー)とハンクの中を裂こうとした。「おれ」は占師マダム・ルビーのところへ、なけなしの二十ドルを持って行き、ハンクの父親に呪いをかけてもらった。しかしハンクは「おれ」と会うことを避けるようになった。
「おれ」はストーンウォール暴動の写真をハンクに送った。
ハンクと最後に会ったのが十二年前の卒業式、「おれ」はこの保守的でくそいまいましい町を出て都会へ。ハンクはクレアドンに残った。再びクレアドンに戻ったのは、ハンクの葬式に出るためだった。
よくわからないが、いつだって帰ってきてよかったと思ったためしがないからな」
「そういうふてくされた物言いはよくないな」
「ふてくされた町だからさ。あいつらを狙ったのはなぜだと思うんだ?」
「子供たちにいたずらされると思って恐がっているんだよ」
「聖書の時代からの最古の屁理屈」
(中略)
「問題じゃない? ハンクは死んだんだぜ、ウィーヴ」
「あまり人に期待をしてはいけない。世界は一夜にしては変わらないから」
「あの便所のことは昨日や今日の話じゃないってことはあんただって知ってるじゃないか。連中をパクったってセックスがなくなるわけじゃないのも。クソッ、そんなことができるくらいならとっくに昔からやっていたはずだろうが」
彼は手のひらを掻いた。「みんながみんな、きみのように我が身を貫ける立場にはいないんだよ。わたしはそれは素晴らしいことだと思っている。しかしわたしたち全員がそうやって生きてゆけるわけじゃない。あるいはいつかはそうなる日も来るかもしれないが、ただし今ではないんだ」
この作品を読むと、アメリカという国は途方もなく広く、かつ途方もなく「田舎」であることがわかる。発表されたのが1991年。どうして二十世紀後半の時代で、自由と平等を謳うアメリカで、同性愛であることによって死を余儀なくされるのだろう。この作品の舞台はアメリカ南部。アメリカにはサンフランシスコやLA、あるいは東海岸とはまるで違う世界が今だ存在する。
作者は「おれ」にこう独白させる。
「世界は丸ごと変わるかもしれない。しかし自分の生まれた町だけは決してかわらないだろう」、と。そしてハンクの若い恋人に、この町から出るように諭す。
訳者の付記によると、作者ピーター・マックギー(Peter Mcgehee)は1955年アメリカ中南部アーカンソー州生まれ。"Boys Like Us"で名声を得、短編集"Beyond Hapiness"、"The I.Q.Zoo"を発表。しかしマックギーは1991年エイズによって他界。死後"Boys Like Us"の続編"Sweetheart"とマックギーの恋人であったダグ・ウィルソンがまとめたさらなる続編 "Labour of Love"も出版された。ただしダグ・ウィルソンも、出版を待たずに恋人の後を追うように亡くなってしまった。
ピーター・マックギー『ハンク・マッコールのバラード』
Peter Mcgehee / The Ballad of Hank MacCohl(北丸雄二訳、青土社ユリイカ1995.vol.27.13 臨時増刊「ゲイ短篇小説アンソロジー」所収)