ドミニック・フェルナンデス 『天使の手のなかで』
Dominique Fernandez "Dans la main de l'ange" (1982)
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岩崎力訳
早川書房
1975年11月1日、ローマ近郊のオスティアの海岸でゲイの映画監督ピエル・パオロ・パゾリーニが17歳の少年に殺された。このスキャンダラスな事件は少年の正当防衛、ファシストによる政治的暗殺など様々な臆測を呼び、半ば伝説化されている。最近ではアウレリオ・グリマルディにより『パゾリーニ・スキャンダル』として映画化された。

『天使の手のなかで』は、フランスの作家ドミニック・フェルナンデスによるパゾリーニを主人公とした自伝形式の小説(想像的伝記)である。想像的伝記ということで、パゾリーニを取り巻く虚実の入り混じった興味深いエピソード、フェリーニやマリア・カラスといった実在の人物の華麗なる登場は、この小説を非常にリアリスティックな、まるでパゾリーニ本人が書いているかのような錯覚すら感じさせる。
とくにマリア・カラスとのエピソードは通常の「ラヴ・シーン」以上の「優しさ」と「愛」が感じられる。
ぼくたち(パゾリーニ&カラス)がキスしている場面の写真は、翌日世界中の新聞に掲載された。《P・P・Pとカラスの純愛?》──アメリカの雑誌は臆面もなくそんな見出しをつけた。三週間後、アリストテレス・オナシスとジャッキー・ケネディの結婚のニュースが伝えられた。九年間ベッドとヨットとスコルピオス島を共にした彼女に、ギリシアの船主はなにも予告していなかった。

p.397-398
──オペラが好きになれない理由はもう一つある。(中略)
ぼくは言葉を選ぶまえにためらった。自分の知っている語彙のなかからその単語を取りあげたのはおぞましいニュアンスのせいだった。
──四分の三はペデだ、と僕は小声で言ったが、この単語にふくまれた罵りを、いかにも蔑むような抑揚で強調した。
ぼくは彼女の見せた仕種を忘れないだろう。(中略)クリップをもてあそぶのをやめて、マリアは両手でぼくの手を握りしめた。
──今度は私のほうから言わなければならないわ。ピエル・パオロ、《あなたはそんなふうに卑下する権利はない》と。そんなひどい言葉をもう二度と使っちゃだめよ。あなたの顔にどれほど苦しげな表情が浮かんだか、ご存知だったら! 自分を苦しめたり、あるがままのあなたを恥じたりする必要なんかないのよ。本当に、全然、とぼくを納得させられそうな論法を探しながら彼女は続けた。
突然それを見つけ出し、郷愁に満ちた目で周囲を見回しながら言った。
──私の最良の友達はルキノ・ヴィスコンティとジャン=ルイの二人だけだったわ。だから、わかるでしょ?

p.403-404
それにしてもこの部分で、パゾリーニが「ペデ」という侮蔑的な言葉を使ったときのカラスの態度には、女性としての、人間としての「優しさ」が痛いほど感じられる。
一方、「テクスチュアル・ハラスメント」を唱える女性が、「ペデ=ホモ」という蔑称を平気で使用している「やおい」(この言葉自体もテクスチュアル・ハラスメント的だ)をその評論の中核にしているという現実を一体どう考えたらよいのだろうか。しかもそれだけでなく、「おこげ=おかま」という馬鹿にしきった言葉を本の題名にして出版していることも。
そんなひどい言葉をもう二度と使っちゃだめよ。あなたの顔にどれほど苦しげな表情が浮かんだか、ご存知だったら! 自分を苦しめたり、あるがままのあなたを恥じたりする必要なんかないのよ。

ジョン・チーヴァー 『ファルコナー』
John Cheever " Falconer" (1977)
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西田実・土屋宏之訳
講談社
米アマゾンのサイトでゲイ・ノンフィクションライター Stephen O. Murray が「私の好きなゲイ小説」の9位にこの『ファルコナー』を挙げている。

http://www.amazon.com/exec/obidos/tg/listmania/list-browse/-/3UB9OIKFET5I9/qid=1024739819/sr=5-2/ref=sr_5_2/104-0340787-2599105

この作品はいわゆる刑務所もので、主人公はファラガッドという大学教授。彼は兄殺しの罪でファルコナー刑務所に投獄される。
刑務所という男だけの世界は、当然ゲイ・セックスの格好の「舞台」になり、麻薬中毒者でセクシュアリティが曖昧だったファラガッドは、刑務所の中(イン)で自分を「発見」し、そしてハメを外す(アウト)。
ええ。意見というのは、けつの穴みたいなもんで、だれでも持っているし、くさいにおいがするもんです

p.73
Stephen O. Murray のこの作品へのコメントは、一言「愛による救済」である。

ハーマン・メルヴィル 『ビリー・バッド』
Herman Melville " Billy Budd, Sailor" (1889)
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坂下昇訳
岩波文庫
若く、美しく、純真な「花の水兵」ビリー・バッド。商船「人権号」から軍艦「軍神号」へ強制徴用されたビリーは、兵曹長クラッガートの嫉妬を買い、その姦計に陥り、思い余って兵曹長を殺害。軍法会議の結果、死刑に処せられる……。
さて、『花の水兵』が、乗組みのなかの、さわやかな存在として、当初から艦長の注意を惹いていたというのも、当然なことではあった。ふだんは士官たちにもあまり感情を表白したがらない彼だったが、ラトクリフ大尉に向かっては、こうも見事な「人類」の標本にめぐり合ったとはめでたいことじゃないかといってやり、君、この男を裸にしたら、『失楽園』以前の、原初びとアダムのモデルにしても恥ずかしくないぜ、ともいってやったのだった。

p.109
『ビリー・バッド』はベンジャミン・ブリテンによってオペラ化されている。台本はE・M・ フォースターとエリック・クロジエ。原作通りメンズ・オンリーの究極のゲイ・オペラである。

『SKINFLICKS』
EROTIC TALES FROM BEHIND THE SCENES
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BRUCE WAYNE 編
companion press
ポルノスター、ポルノ業界を舞台にしたエロティック・フィクション集。様々なシチュエーションでゲイのセクシュアル・ファンタジーを満たしてくれる。収録されている作品は、
  • Jim Buck "Two Big Thumbs Up--(Everyone's Critic!)
  • Rip Davis "And The Award Goes To ..."
  • Vic Howell "Brother Act"
  • Simon Shepper "The Plot Thickens"
  • Kirk Dickson "The Stand-In"
  • James Anselm "Soothing The Savage Actor"
  • Dak Hunter "The Cocky Videostore Clerk"
  • Ceidrik Heward "Close-up On The Cameraman"
  • David MacMillan "A Foreign-Film Affair"
  • Alan W.Mills "Pornstar Powertrip"
  • Barry Alexander "In Video Heaven"
  • Sam Sommer "A Very Personal Appearance"
  • Adam McCabe "Telephone Audition"
  • Derek Kemp "Video Date"
  • Michael Lassell "The Pornstar Next Door"
の15篇。
中でも注目は、実際の人気ポルノスター Jim Buck の作品。ビデオではトレードマークのピアス付きコックで、トップ/ボトム両方こなすハンサムなジムが、文章でも思いっきり楽しませてくれる。さすがはオールマイティなエンターティナーだ。

クリストファー・ライス 『ぼくたちの終わらない夏』
Christopher Rice "A DENSITY OF SOULS" (2000)
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鈴木玲子訳
BOOK PLUS 角川書店
1978年生まれのクリストファー・ライスのデビュー作。今さらであるが、いちおう書いておくと、クリストファーは『夜明けのヴァンパイア』でお馴染みのアン・ライスの息子である。
そしてなかなかハンサムなクリストファーはゲイでカミングアウト済み。雑誌 Advocate でもクライヴ・バーカーと対談をしていた。

この作品はそんなゲイであるクリストファーの経験が生かされた自伝的作品で、アメリカ南部ニューオリンズを舞台に思春期の少年たちの愛と憎しみ、そして圧倒的な暴力──「神の軍団」と称する過激なアンチ・ゲイ集団によるゲイ・バー爆破事件──を描いている。
ゲイ・バー爆破事件の犠牲者となった七十人に、ニューオリンズ全市が哀悼に沈んでいる。瓦礫と遺体の山を前に、調査は依然、難航中。

その名には意味があった。地元のふつうの人間たちが集う店では肩身の狭い思いをするゲイの男たちにとって、そこは自由に踊り、飲み、欲望のおもむくままに行動することができる、まさに『保護地区』そのものだったのである。だが、その<サンクチュアリ>の看板も、今では調査官の足元にむなしく転がっている。

p.236

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