スーザン・ソンタグ著『反解釈』
─ 評論、エッセイ ─
高橋康也ほか訳 (竹内書店新社、ちくま学芸文庫) |
スーザン・ソンタグの文章は、エッセイであれ、映画批評であれ、書評であれ、とりたてて新しい「思想」や「理論」を表明しているものではない。これまで気がつかなかった「見方」や見過ごしていた「感覚」等を明らかにし、膨大な知識と巧妙なレトリックによって、「ある感覚、ある感受性」を分析するスタイルだ。 その作業はスリリングであり、まるでサスペンス小説のような緊張感が漂っている。 この本はそういった彼女の才気が遺憾なく発揮された素晴らしい作品集で、魅力的な示唆に富み、特に題名の『反解釈』には、個人的にかなりの影響を受けた。しかしゲイ的な視点から見ると、最も興味深いのは『《キャンプ》についてのノート』だろう。 いまでこそゲイ的な感覚やテイストを「キャンプ」と呼んでいるが、その「キャンプ」と言う「感覚」を分析し、定着させたのはソンタグの功績である。 彼女はここで、芸術や文学、映画、演劇、ファッションの中のあらゆる「キャンプ趣味」を列挙し、コメントし、メモという形で提示している。 いくつか引用してみよう。 1.一般論から始めると、キャンプとは一種の審美主義である。それは世界を芸術現象として見る一つのやり方である。このやり方、つまりキャンプの見方の基準は、美ではなく、人工ないし様式化の度合いである。 10.キャンプはあらゆるものをカッコづきで見る。単なるランプではなく「ランプ」なのであり、女ではなく「女」なのだ。 34.キャンプ趣味は、よいか悪いかを軸とした通常の審美的判断に背を向ける。 51.キャンプ趣味すなわち同性愛趣味とするのは正しくないけれども、両者の間に奇妙な近似と重複があることは確かである。 55.キャンプ趣味とは、何よりも享楽ないし享楽の仕方であって、判断の仕方ではない。キャンプは寛容なのだ。それは快楽を欲している。 56.キャンプ趣味とは一種の愛情──人間性に対する愛情──である。 58.窮極のキャンプ的言葉──ひどいからいい。 まさに「目からウロコ」という感じのメモ書きが連なれている。こういった視点から見ると、歌舞伎やオペラ(僕は嫌いだが)、あるいはドラッグ・クイーンのスタイルはまさに「キャンプ」だろう。 この他ヘンリー・ジェイムズやジャン・コクトー、マニエリスム芸術やラファエル前派、グレダ・ガルボ等、ゲイ好みの「固有名詞」が続々と登場する。 彼女が例示した数々の「キャンプ」の中で、僕が気に入ったものを一つ挙げるとすると、 4.”欲望を離れて見たエロ映画” あたりになる。 スーザン・ソンタグ Susan Sontag 著作(邦訳)リスト 『死の装具』(小説、早川書房) |