創拓社 ISBN4871381951 |
本書を一読すれば、クーパーがエドマンド・ホワイトやクリストファー・デイヴィス、クリストファー・ブラム、マイケル・カミンガムといったゲイ・ライターズとは質を異にしたゲイ作家であるかが理解できるだろう。確かに、男性同士のセックスを描いているが、基本的にはサド、バタイユ、クロソウスキー、マンディアルグ、ジュネ、ギュヨタなどに系譜に連なるエロティシズムの作家なのである
スプラッタ・アヴァン・ポルノ登場 - デニス・クーパー論 やっぱり目利きの男性は違う。このガイドブックで触れられているデイヴィット・フォスター・ウォレス『奇妙な髪の少女』(白水社)のポスト・モダンな表題作を読んだとき、そう思った。 『奇妙な髪の少女』はゲイ小説でもなんでもなくて、(女性に)フェラチオをされているときに、その女性をライターで焼きたくなる性癖を持つハンサムな青年の話である。もちろんポスト・モダンな小説なので、ストーリーそのものよりも、その「描き方、書き方」を読むべきものだ。(そういった意味で、最初はちょっと取っ付きにくいところがある。でもノッてくると最高に面白い!) 風間賢二氏の持っている情報量は半端ではなく、また目配りの利いたレビューには定評がある。僕が信頼している書評家、ブック・ナビゲーターの一人だ。そしてゲイ・フィクションにもかなり詳しい。この本でもデニス・クーパーを始め何人かのゲイ作家を紹介しているし、他でも例えばユリイカ臨時増刊11(1995年)で『おかま作家の真髄は変態小説だ!』という中で、かなりエグイ作品を紹介している。また翻訳もしている。 しかしストレートの男性である風間氏が、いくつかのゲイ・フィクションを紹介するのは、それがゲイ・フィクションであるからではなくて、単に「小説好き」にとって「小説として」面白い小説を選んだだけのことだ。 視点を変えて見ればわかるだろう。ゲイ男性が女性のマスターベーションを見てもさほど面白くないように、ストレートの男性がゲイ男性のマスターベーションなんて興味がないのは当然だ。 ジェンダーやホモセクシャリティとしてのアイデンティティ(カミングアウト)がメインテーマのゲイ・フィクションは、文学と言うより、所詮、ゲイのマスターベーションにすぎないと思う。ましてや(少女)コミックあがりの女性向け同性愛小説=マスターベーション小説なんて、ストレート男性にはもちろん、ゲイ男性にとっても噴飯ものだ。 しかし残念なことに、ゲイ男性向けマスターベーション小説(そして映画も)において、女性の視点、女性の価値観でリーディングされる(歪曲される)場合が多い。 ある女性が怒っていた。「こういうゲイがゲイの評判を落とすのよ」と。こういうゲイ、つまりモノガミーなんて馬鹿にして、性的放埓=アバンチュールを繰り返すゲイのことだろう。 はっきりいって余計なお世話だと思う。他人のマスターベーションのネタに口を挟むな!と言いたくなる。 では、風間氏が紹介しているゲイ・フィクションはどういうものか。まずはデニス・クーパー。氏はデニス・クーパーの作品を次のように紹介する。 一言で述べれば、”とりあえず”ゲイ・フィクションにカテゴライズされることで主流文学から逸脱し、”アモラル”であることによって主流ゲイ・フィクションからも逸脱している、破壊的で危険な香りのする文学、それがデニス・クーパーの作品世界なのだ。風間氏はデニス・クーパーについての懇切丁寧なバイオグラフィー、他の主要作の紹介のみに止まらず、さらにクーパーに比肩する”ハイリスク”、すなわち”ニュー・ナラティブと称される作家たちについても多数言及する(これこそ風間氏の真骨頂で、まるでハイパー・リンクのように膨大な情報にめぐり合うことが出きる。読書範囲がますます広がる)──キャシー・アッカー、リン・ティルマン、サラ・シュールマン、エリック・ラツキイ、バット・カリフィア、スティーブ・アボット、ケヴィン・キリアン、ローバート・グリュック、ボー・ヒューストン、ドロシー・アリスン。彼によるといずれもゲイ・レズビアン、バイ・セクシャルの作家だという(つまりゲイにとっては要チェック)。 そして『タンジールのハンプティ・ダンプティ_アルフレッド・チェスター論』としてポール・ボウルズ、スーザン・ソンタグらと関係のあったアルフレッド・チェスター Alfred Chester にページを割かれている。彼もまた数奇な運命を辿った人物らしく、作品ともども非常に興味深い。 チェスターの作品は「ゲイ小説100」の78位に”The Exquisite Corpse”が入っている。 他に「埋もれた傑作発掘録」としてジャイムズ・パーディ、クエンティン・クリスプ(なんとスティングの『イングリッシュマン・イン・ザ・ニューヨーク』のビデオクリップに出演しているらしい!)などが紹介されている。 最後にこの本で紹介されたゲイ小説で邦訳のあるものをいくつか挙げておく。 ●デニス・クーパー『フルスク』(ペヨトル工房)、『クローサー』(大栄出版)、『ジャーク』(白水社) |