オリヴィエ・メシアン:峡谷から星たちへ
Olivier Messiaen (1908 - 1992)
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- 峡谷から星たちへ(1971-1974)
- 異国の鳥たち(1956)
- 天の都市の色彩(1963)
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ポール・クロスリー : ピアノ
エッサ・ペッカ・サロネン : 指揮
ロンドンシンフォニエッタ
recording 1988 / CBS(SONY)
最近良く耳にする「共感覚」という現象。これはある刺激を受けたとき、本来の感覚に他の感覚が伴って生ずる現象で、例えば書かれた文字や言葉の響きに「色」を感知してしまう特殊な知覚のことだ。
『言葉や音に色が見える――共感覚の世界』
http://www.hotwired.co.jp/news/news/technology/story/20020325306.html
この記事によると、共感覚を有する人は、新聞を読んだり、発語された言葉を聞いたり、あるいは数字を見ただけで色彩が閃いたり虹色が見えたりするそうだ。
この「共感覚」という知覚。僕はまあ有していないと思うが、作曲家のオリヴィエ・メシアンはもしかして共感覚者だったのでは、と感じることがある。なにしろメシアンの音楽は独特だ。あの「時間」に「色彩」を当て嵌めたという
『クロノクロミー』を始め、その響きは「色」とは切り離せない。
そして常人の理解を遥かに超えた次元で展開される色彩に関するメシアンの言説は、彼の狂信的とも言えるカトリック思想と相俟って、いかがわしさと背中合わせの神秘の法悦に満たされている──もちろんそれこそがメシアン作品の最大の魅力だ。
(またそのものすばりの『メシアン、音楽と色』/Olivier Messiaen "Music and Colour",Amadeus Press/ という本も出版されている。
http://www.musicweb.uk.net/classrev/2002/Jan02/Messiaen_book.htm )
このCDに入っている3曲は、まさしくメシアンの共感覚説を裏付けるような強烈な響き=色彩が迸っている。
『異国の鳥たち』は題名の通り鳥の声を音楽化したもの。リズミカルで多少攻撃的な鳥の鳴声が、驚くべき精度と強度を保ちながら響き渡る。
『天の都市の色彩』はヨハネの黙示録からイメージを得たもので、メシアンの特異な色彩感覚が炸裂する。楽器編成はピアノ、3つクラリネット、3つのシロフォン、金管、そしてメタリック・パーカッションという独特なもの。
この曲でメシアンは黙示録を引用し、そこで示される色彩をスコアに記している。これこそ、音の複合体と色の複合体が関連付けられている──つまり共感覚の証左であり、サイケデリックな、まさしく虹色の響きを孕んだ音楽と言ってもよいだろう。黙示録と言ってもその響きは決して重々しくも禍禍しくもない。メタリックな感触のする輝かしい音色を放ち、その眩しさに聴く者をチックさせながら、音楽は独特のリズムを刻み、疾駆していく。
1976年はアメリカ建国200周年であった。それを祝うために Alice Tully に委嘱された作品が『峡谷から星たちへ』である。この曲を作曲するにあたり、メシアンはアメリカのユタ州にあるブレイスキャニオンとザイオン国立公園を訪れ、その雄大な自然に多大なインスピレーションを得た。
音楽はその威容な景観に相応しい大胆かつ華麗なもので、人知を超えた自然に対する畏怖と畏敬の念に貫かれている。
ホワイトノイズを思わせる「砂漠」から始まり、メシアンのトレードマークとも言える多彩な「鳥の声」、堂々たる「ブレイスキャニオンと赤き岩」、ホルンによる「惑星の呼び声」、星(アルデバラン──牡牛座中のオレンジ色に光る1等星 )の煌き、「ザイオン国立公園」の圧倒的な迫力、そして「神聖な都市」の静寂へと……。
まさに常軌を逸した音のコスモスがそこにはある。その音楽は全能の神の技か? と言ったら敬虔なメシアンからは「畏れ多くも」と異論を投げかけられるだろう。しかしアメリカで最も宗教的な州に降臨したのは、メシアンその人に他ならない。
[ブライスキャニオン]
http://www.nps.gov/brca/
http://www.brycecanyoncountry.com/photos-scenic.html
[ザイオン国立公園]
http://www.nps.gov/zion/
http://www.zionnationalpark.com/mainloop.htm