[WARSAW CONCERTO and other Piano Concerto from The Movies]
映画を彩るピアノ協奏曲集

  • リチャード・アディンセル:ワルソー・コンチェルト
    『デンジャラス・ムーンライト』(1941)
  • ジャック・ビーバー:イスラの肖像
    『ザ・ケース・オブ・ザ・フライトゥンド・レディ』(1940)
  • ミクロス・ローザ:「白い恐怖」の協奏曲
    『白い恐怖』(1945)
  • ニーノ・ロータ:魔の山の伝説
    『魔の山』(1948)
  • リチャード・ロドニー・ベネット:主題とワルツ
    『オリエント急行殺人事件』(1974)
  • ヒューバート・バス:コーニッシュ・ラプソディ
    『ラブ・ストーリー』(1945)
  • バーナード・ハーマン:死の協奏曲
    『戦慄の調べ』(1945)
  • チャールズ・ウイリアムズ:オーウェンの夢
    『ホワイル・アイ・リブ』(1947)
  • レナード・ペナリオ:ミッドナイト・オン・ザ・クリフ
    『ミッド・ナイト・オン・ザ・クリフ』(1956)

フィリップ・フォーク(ピアノ)
RTEコンサート・オーケストラ
指揮:プロインシャス・オドゥイン


recording 1995 / NAXOS

このCDは、映画のオリジナル・サウンドトラックとして作曲されたピアノ協奏曲(風の作品)を集めている。この中で実際に見たことがある映画は『白い恐怖』と『オリエント急行殺人事件』だけであるが、「普通の」クラシック音楽を聴くように、ロマンティックな曲調のものから現代音楽風のアレンジのものまで、幅広い多彩な「ピアノ協奏曲」を楽しめることができた。ありそうでなかった好企画のCDといえるだろう。

とくにミクロス・ローザの「白い恐怖」。これにはあの不思議な電子楽器テルミンが使われていて、シュールな音響がメチャクチャ面白い。メシアンが好んだオンド・マルトノとともに初期の電子楽器の音色にはなんとも言えない味がある。

バーナード・ハーマンの「死の協奏曲」は現代音楽風でとても気に入った。ピアノもそのヴィルトゥオジティが遺憾なく発揮され、独立した楽曲として十分に鑑賞に耐える傑作だと思う。
有名な「ワルソー・コンチェルト」はまともにラフマニノフ風。ニーノ・ロータの「魔の山の伝説」は日曜洋画劇場のエンディングような感じ。どちらも過剰にロマンティック。甘美な雰囲気に浸りたい向きにはお奨め。


そういえばピアノ協奏曲風の音楽って映画に良く合う。マイケル・ナイマンが作曲した『ピアノ・レッスン』なんかはまず音楽ありきの映画であったし、松本清張原作の『砂の器』も犯人がピアノを弾くシーンがとにかく印象的だった。クラシック音楽をそのまま使用した映画、例えばシューマンを使った『マダム・スザーツカ』、プロコフィエフ他をちりばめた『コンペティション』なんかも思い出す。

あと映画ではないが、高村薫の『リヴィエラを撃て』でのクライマックス、諜報員でもあるピアニストが万感の思いを込めてブラームスのピアノ協奏曲2番(この曲しかないでしょう、あの重厚なストーリーに匹敵する音楽は)を弾くシーンは最高に、胸が締め付けられるくらい感動した。

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ROTA [MUSIC FOR FILM]
ニーノ・ロータ:映画音楽集
Nino Rota (1911 - 1979)
  1. ゴッド・ファーザー
  2. 8 1/2
  3. 甘い生活
  4. オーケストラ・リハーサル
  5. 若者のすべて
  6. 山猫

ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団
指揮 リッカルド・ムーティ


recording 1997 / SONY CLASSICAL

ムーティ指揮によるニーノ・ロータ映画音楽集。コッポラ、フェリーニ、ヴィスコンティらの作品からセレクトされている。映画はどれも豪奢としか言いようがない贅沢極まりない映像美を誇る作品ばかり。そこにロータの甘美でセンチメンタルな音楽が絡むと、まったくオペラのような虚飾に満ちた輝かしさを感じ得ることができる。ゴージャスでありながら、どこか切なく、微かな哀愁を帯びている。

有名な、この音楽なしでは映画が成り立たない『ゴット・ファーザー』は何度聴いても素晴らしいけど、やっぱりベストは『甘い生活』かな。短いながらもこの音楽の持つ「気だるさ」の「演出」は、別格だと思う。スクリャービンの、ある意味生真面目な「官能さ」とはまったく異なった、余裕のデカダンス。それは脂肪が身体に付き始め、肉体の線が崩れかかった中年の男と女──ルシアン・フロイドのモデルのような──のメロドラマだ。フェリーニの映像に見事にフィットしてたまらない雰囲気を醸し出している。

ヴィスコンティ監督の二つの映画は個人的に気に入っていて(というよりアラン・ドロンがね)、音楽もなかなか良い感じだ。『山猫』は壮大なグランド・オペラ風で、『若者のすべて』はヴェリズモ・オペラ風。反動的なまでにロマンティックでシンフォニックな音楽が響き渡る。

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PROKOFIEV [ALEXANDER NEVSKY]
セルゲイ・プロコフィエフ:アレクサンドル・ネフスキー
Sergei Prokofiev (18911 - 1953)

ALEXANDER NEVSKY Film Score

セント・ペテルスブルクフィルハーモニック管弦楽団
指揮 ユーリ・テルミカーノフ


recording 1993 / BMG

エイゼンシュテイン監督による『アレクサンドル・ネフスキー』は1938年に制作された。13世紀にドイツを破ったロシアの英雄アレクサンドル・ネフスキー公を扱ったこの映画は、当然、迫り来るナチス・ドイツの脅威に対するエイゼンシュタインの態度を表明したものであり、ロシア人民に祖国愛を呼びかけるものであっただろう。映画は、監督初のトーキー作品でモンタージュ理論を取り入れた古典的傑作と見なされている。

プロコフィエフはそんなエンゼンシュタインに賛同する。もちろん彼はただのBGMを書いたのではない。解説にもあるように彼は、単なる映画のBGMを作曲したことなど一度もない。この『アレクサンドル・ネフスキー』は映画監督エイゼンシュタインと音楽家プロコフィエフの紛れもないコラボレーションで「フィルム−オペラ」と呼ぶに相応しいものである。
井上頼豊『プロコフィエフ』(音楽之友社)によると、エイゼンシテイン、名カメラマンのティッセ、そしてプロコフィエフの三人は映画仲間から「トロイカ」と呼ばれるほど固い同盟を形成していたそうだ。

音楽は、ピアノ協奏曲や『悪魔的暗示』あたりで見せた邪悪なモダニストぶりは鳴りを潜め、チャイコフスキーの伝統に則ったヒロイックでドラマティックなものなっている。この音楽にあの映像が加われば、感動は間違いなく訪れる──そんな感じのものだ。このCDでは鐘の音や擬音までも忠実に再現されている。

プロコフィエフとエイゼンシュタインはその後も強固な関係を続け、独ソ戦の最中には『イワン雷帝』で再びタッグを組む。

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